農薬空散でがんが41倍

 前記事の続き。反グリホサートの闘士、ソフイア・ガティカの活動をゴールドマン賞のサイトhttps://www.goldmanprize.org/recipient/sofia-gatica/を中心に、その他の情報を加えて紹介します。日本でも、今なお平然と農薬を散布している自治体や農家も多いと思われるので、どうぞ参考にして下さい。

Argentine environmentalist Sofia Gatica poses with a glove reading "Monsanto out," as she protests against the use of ガティカ:写真はhttps://phys.org/news/2018-07-eco-warriors-glyphosate-argentine-countryside.html

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 農薬被害で幼児を亡くした母親、 ソフイア・ガティカは、大豆畑に見境なく噴霧されている有毒な農薬散布を止めるために、地域の女性たちを組織した。

 アルゼンチンは世界第三の大豆の輸出国だ。毎年、産業界は5千万ガロン以上の毒性のある農薬-グリホサートー非常に使用量が多いモンサント社のラウンドアップの有効成分ーとエンドサルファンーを空中散布している。モンサント社は人体にリスクはないと主張するが、2008年の科学的研究によれば、濃度がごく低くても、グリホサートはヒトの胚細胞、胎盤細胞、さい帯細胞を死滅させることがわかっている。エンドサルファンは極めて有毒な農薬で、人と環境への脅威となることから80カ国以上で禁止されている。2011年5月、国連はエンドサルファンを地上から廃絶すべき物質として、POPs(難分解性有機汚染物質)リストに加えている。

 1990年代終わり、ソフイアは娘を出産した。その三日後、赤ん坊の腎臓は機能しなくなった。労働者階級の母親たちはなぜ赤ちゃんが死んだのか理由を知ろうと決心した。彼女は、アルゼンチン中央部、一面大豆畑に囲まれた、人口約6000人のイトゥザインゴの村を回り、人々に語りかけ始め、地域に奇妙な病気が蔓延していることを知り、警戒心を抱いた。

 次いで、ガティカは自宅に隣人を招き、彼らの経験について話し合った。高校しか卒業しておらず、組織化の経験もなかった彼女は、こうして「イトゥザインゴ の母たち Mothers of Ituzaingó」の共同創設者となり、16人の女性たちとともに、地域を汚染している農薬散布を止めるために立ち上がった。

 彼女たちは住民を一軒ずつ訪ね、地域の疫学研究を始めた。そして農薬空散 イトゥザインゴ の家族にどれほど深刻な影響を与えているか発見した。住民のがんの発生率は国家平均より41倍も高かった(医師たちによれば、がんの多くは報告もされていないと考えているー実際のがん患者数はもっと多いかもしれない)。 また、神経系統や呼吸器系の病気、先天異常、乳幼児死亡率も高かった。

 最も恐れていたことの裏付けを得て、彼女たちはアルゼンチンのその他の環境グループとともに、「ストップ空散」キャンペーンを開始した。記者会見を開き、デモを行い、農薬の害を伝えるパンフレット作って市民を教育したのだ。ガティカはさらに、研究所にコンタクトし、村で起きていることを確認するための科学調査を行うことを求めた。

 それは難しい戦いだった。資金は乏しく、モンサントやデュポンなどアルゼンチンで営業しているグローバル企業に説明責任を求めようにも、直接のてがかりは何もなかった。彼女たちはまた、個人や警察官、中小企業主らから加えられる侮蔑や脅しにも耐えなければならなかった。2007年、ガティカは家を訪れた人物に拳銃を突きつけられ、キャンペーンを止めろと脅されたこともあった。

 それでも母親たちは戦いを止めなかった。そして彼女たちの主張は注目を集めるようになり、アルゼンチン大統領は2008年、健康大臣に対し、地域の農薬使用に関する影響を調べるよう命令を出した。その結果、ブエノスアイレス大学医学部が行った研究調査は、母親たちが行った聞き取り調査の正しさを裏付けるものとなった。ガティカはさらに、住宅から2,500メートル以内では空散を禁ずるという市条例を通過させるのに成功した。そして2010年、彼女たちは前例のない勝利を得る。最高裁判所は、人口密集地近くでの農薬散布を禁止しただけでなく、被害の因果関係を住民に証明させるのではなく、企業と大豆生産者が農薬の安全性を証明しなければならないとして、証明の負担を逆転させたのだ。

 他の地域で同じような問題に苦しむ人々はガティカに助けを求めるようになった。問題の広がりを認識した彼女は、全国でストップ空散キャンペーンを続け、住宅地のそばで農薬を使用しない緩衝地帯と水路の設置を求めている。またアルゼンチンにおけるエンドサルファンの使用禁止は2013年7月に発効したが、ガティカと彼女の仲間たちはグリホサートも全国的禁止に持ち込めるようがんばっている。

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 POPsのエンドサルファンがまだ使われていたのに驚きました…これは途上国だからできたことでしょうが、日本の状況はほぼその途上国並みであることを知っておかないと。きょう日、無知でいることは、健康で生きる権利を手放すのとおなじです。

 なお、ガティカたちのように、因果関係を目に見える形で示し、実際の被害者が立ち上がって政府や企業に要求をつきつけ、住民の権利と主張を通す動きを「直接行動direct action」と言います。この記事にはありませんが、ガティカは空散を止めようとして畑に無断で立ち入り、手錠をかけられて逮捕されるなど、それは過酷な経験もしていますが、それでもめげないのは女性だから。

 住民運動においては、へたに理論や屁理屈をこねくり回し、メンツと会議を重視する男性より、大局的に考え、行動でき、めげない女性の方がはるかに向いています。これは市民運動家としての山本の経験から断言できますよ~。みなさんたちの「反対運動」がうまくゆかない時、一度、トップを女性に変えてみるのもいいかもしれません。2018.8.26

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/