安岡洋上風力、地裁、漁民の訴え退ける

  これまでも、地元の反対運動、それをつぶすためのスラップ訴訟、漁協の賛成と一転反対など、いまだにさまざまな話題を投げかけている「安岡洋上発電」計画。しかし、漁業者が起こした工事差し止め訴訟は、腐敗した地裁の裁判官らの耳に届かず。  

 

下関・安岡沖風力発電、漁業者の訴え棄却(山口県)

 [ 10/2 18:27 山口放送] http://www.tvi.jp/nnn/news87010871.html

  下関市の安岡沖に計画されている洋上風力発電事業を巡り、地元の漁業者が、工事の差し止めを求めた裁判で山口地裁下関支部は、2日、原告の訴えを棄却した。原告側は3日にも控訴する方針だ。訴えていたのは、下関市安岡の県漁協下関ひびき支店に所属する漁業者。下関市の安岡沖では、東京に本社を置く前田建設工業が、風車15基を設置する総発電量6万kWの洋上風力発電事業を計画している。訴えの中で、原告側は、建設予定海域は、サザエやアワビ・ウニなどの好漁場で長年、もぐり漁などを営んでいる。建設されれば、漁場が失われ漁業行使権が侵害されるとして工事の差し止めを求めていた。2日の判決で山口地裁下関支部の泉薫裁判長は、「もぐり漁の権利は、法的保護に値するが、工事を排除するほどの効力は、漁業権行使規則上認められない」などとして原告の訴えを棄却した。前田建設工業は、「裁判を通じて主張した事が認められたものと受け止めている。引き続き住民への説明などを行い環境影響評価書作成の準備を進めたい」とコメントしている。原告側は、判決を不服として3日にも控訴する方針。

 

 裁判資料を読んでいないので、この記事を読んだだけでの感想ですが、裁判長はお粗末すぎる。

 まず、この風車建設(高さ80~90メートル、全体高は136~155メートルにもなる)のために、どれほどの規模の海底工事、および資材運搬のための付帯工事が必要で、何万トンの土砂を掘り返し、あるいは移動し、何万トンのコンクリートが打設されるか、今の段階ではおそらく何ひとつわかっていないはずです。なぜなら、自然相手の事業は常に、「やってみないとわからない」から。したがって、漁業者が漁場の喪失を恐れるのはあまりにも当然の話。それにもかかわらず、「漁民の訴えには効力がない」というのは、地裁裁判官全員が想像力と分析力に欠けること、市民の気持ちに寄り添う心がなく、鈍いこと、そして、何らかの形で企業と経産省に首根っこを抑えられているからでしょう。ひどい判決です。

 

 それから、争点にはなっていなかったようですが、建設予定地はもちろん風が強く(響灘の一部)、鳥の「渡り」のルートにあたり、鳥類にも大きな影響が出ることでしょう。この事業のアセスhttp://yasuoka-offshore.net/news/4/下関環境審議会資料.pdfを見ると、オオミズナギドリ、アマツバメ(準絶滅危惧種)、カンムリウミスズメ、ハヤブサ(絶滅危惧Ⅱ類)など、26種類もの鳥類が確認されていて、驚きました…だって、少し前までは、オオタカの巣がひとつ発見されれば、それだけでダムや林道工事が止まったんですよ。多くの絶滅危惧種が確認されたこの地域は、全域を自然保護区域としてもいいくらいなのに、そんな声はちっとも出ず(出ているかもしれませんが、聞いてない)、事業も止まらない。

 なぜなら、日本では、この分野で大きな力をもっている自然保護団体のほとんどが、風車を推進しているという恐ろしい城きゅおうにあるからです。下は、日本自然保護協会、日本野鳥の会、世界自然保護基金ジャパンという代表どころが2014年に共同で出した、実に恥ずべき「共同(謀議)声明」。

 

プレスリリース 2014.04.25

 2014年4月25日午後2時、「公益財団法人日本自然保護協会」、「公益財団法人日本野鳥の会」、「公益財団法人世界自然保護基金ジャパン」の3団体は、環境大臣あてに、持続可能な自然エネルギーの導入促進に対する共同声明を発表し、提出いたしました。共同声明要旨>

1.原子力発電所の早期廃止、再生可能な自然エネルギーの導入促進は喫緊の課題である

2.自然エネルギーの推進は、生物多様性及び地域社会と共存する形で行われること

3.自然エネルギーへの理解と継続的な普及のため、当初からの地域社会の参加による透明性のある、合意形成プロセスや環境アセスメントが例外なく実施されること。

 分析すると;

1「原発廃止」とセットにすることで、「再エネ推進」との矛盾を隠している(再エネを推進しているのも原発推進勢力!)

2.生物多様性や合意形成、環境アセスというキーワードをちりばめ、一見「まとも」そうだけど、ポイントは「再エネ導入の促進」、つまり「再エネには決して反対いたしません」という意味

3.全国組織では、「本部ー支部」関係を通じて、地方の団体の行動をしばっており、この声明はそのまま地方の行動の足かせとなり、地方の自然保護団体のメンバーは、組織名を出して動けない。

 背景にあるのは、各団体はそれぞれ、企業や政府関係の補助金を得ていたり、調査関係の仕事を下請けしたりという事情です。したがって、彼らはれっきとした利害関係者であって、よけい「反対できない」のです。・・・海外では、風車反対の前面にたって、事業者側と激しくやりあうのが自然保護団体なんですけどね、誰からかお金をもらっている団体は実に汚いし、頼りにならない。

 話を元に戻しますが、この判決で取り上げられている「漁業権行使規制」とは、漁業法を根拠にし、漁獲関連の許認可、免許などを規定したもの。これを根拠に「工事排除」を訴えた事例があったかどうか知りませんが、「棄却」は予想できたのでは?私ならぜ「総有権」としての漁業権を主張しますが、今は漁業者でさえ教えないとわからないからなあ・・・。2018.10.06

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/