南京だより:新しい隣人①

  9月初めから、小さい部屋の方に新しい間借り人がや
ってきました。内モンゴルから来た母娘です。大学院を
受験する大四の娘のために、ママが家事一切をやりに来
たのです。子供の教育に多くをつぎこむ、この国の典型
的な教育ママ。
 娘は縦も横も大きくて、まるで朝清龍の妹さま?とい
う感じ。背の低いママは伯母さんというところか、でも
二人とも漢族で、モンゴル語はまったくできません。
 引っ越してきた夜のこと、親子の部屋からぎゃっとい
う声がしました。えらく騒がしい。
 やがておばさんがやってきて「薬はないか」と聞きま
す。クスリ? 虫がいるというので、前の住人が置いて
いった殺虫剤を渡しました。ゴキブリ? と聞くと、
「足が四本…本当に怖い、怖い」それじゃあ、ゴキじゃ
ない。見にいきました。
 すると形の大きい娘は部屋の隅で固くなっています。
 おばさんは「ほら、あれだ! いる!」とやたら騒が
しい。…何じゃ。ヤモリじゃないの。かわいい壁の散歩
屋さん。「これ、悪いことしないわよ。虫を食べてくれ
るの」といいながら、つかまえようとしたとたん、おば
さんはギャッと叫んで、手にした殺虫剤をプシュー。
 とたんに部屋じゅうに農薬の匂いが…あわてて取り上
げようとしたけれど、すっかり興奮したおばさん、目を
つりあげ、逃げ回るヤモリの後をどたどた追いながら、
プシュー、プシュー。それでもヤモリはひくひく動いて
います。
 「止しなさい」と殺虫剤を取り上げるまでに、十回ほ
どもスプレー撒布、その目にしみること……ヤモリは紙
に載せて外に逃がしてあげましたが致死量だったかもし
れません。
 なぜ人の制止を聞かないのか、とおばさんを見ると、
彼女はすっかりほっとしたのか、ニコニコして「あな
たは勇敢だ」……と、人の言うことなんか、まるで耳に
入っていないのでありました。
 本日の教訓は、恐怖にかられた相手に「武器」を渡し
てはいけないということでした。恐怖は人を狂わせるか
らです。この方たちと、少なくとも半年、うまくやって
行けるのか、やや不安になりました。

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hiromachi