南京だより:ダフ屋さんとカギ屋さん

 みなさま、
 管理人Ⅱです。はじめまして。
 この「南京だより」は、中年留学生である私が、滞在先の
南京で遭遇した、いろんな「不思議」「おどろき」を、不
定期にお伝えしているものです。知っているようで知らない、
お隣のお国柄が、少しでも伝わればと思っています。
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 さて私は08年8月17日夜、午後6時に上海空港に着き、すぐ
バスで上海駅にむかいました。新幹線に乗るためです。その
方が早いし(南京まで約二時間)、ラクなので。
 ところが切符売り場に行くと機嫌悪そうな顔つきの男性職
員が「南京行きはない!」といいます。「立ち席でもいいの
よ」「10時半だ!」「新幹線じゃなくてもいいのよ」「10時
半だっ!」後の客も同じようなことを言われています。…何
かヘン。なぜ立席券を売らないの? でも、ここでごねても
しょうがない、と長距離バスの停留所に行くことにしました。
 切符売り場から外に出ると、一人のおばあちゃんが寄って
来ました。めがねをかけた彼女は、いかにも優しげに「どこ
に行くんだえ?」と上海弁で聞きます。ホテルやタクシーの
客引きが出没する時間帯。「南京なの。でも切符がないとい
うからバスにするわ」というと、声をひそめて「切符ならあ
るよ。バスの切符も手配できる」と言います。
「手数料は十元(150円)。でも電車の方が速いし、ラクだ。
8時20分発だからちょうどいい」。 ……ぴん、と来ました。
そういうわけか。
 値段はと聞くと150元、「130元にして」「それはできない。
でも140元にしてあげる」、で交渉成立。彼女は人でごった
がえす駅前広場を横切り、切符の束と、札束の入ったカバン
をさげた40代の女性「社長」の所に連れて行きました。
「社長」は金を受け取ると、切符の束から無造作に一枚抜き、
手渡してくれます。二等指定席、本来の値段は93元。本物だ。
と、隣で交渉していた男の子が、不安げに「これって信用で
きるだろうか?」と聞きます。「大丈夫じゃない?」私はそ
れだけいって、その場を離れました。
 おそらく、職員の一部が切符を横流しし、切符が「ない」
と言われ、困惑して出て来る客をダフ屋さんが俟ちうけて商
売するというシナリオでしょう。つかまっても言い逃れ可能。
腹を立てるより、売れ残りの切符はどうするのか、何人くら
いこれで食っているのか、そんなことが気になった私です。
 切符は「本物」。電車は夜10時40分に南京着。地下鉄に乗
り替え、南京大学のある駅に降りました。夜でも学生でにぎわ
う構内を抜け、アパートに。ああ、やっと着いた。
 ところがっ! アパート(1階)のカギが開かない…。休み
前までは何の問題もなかったのに、どうしてもキーが鍵穴に
入らないのです。目を凝らすと、鍵穴が一部傷ついているし、
ドアには「電気代を払え、でないと電気を止めるぞ」との連
絡票が。だんだんイライラして、カギを半分ほど押し込み、
力まかせにひねったところ、「ガキッ」といういやな音が。
…カギの先っぽが折れたのです。…アウト。
 知り合いに電話しようにも、夜11時では人に助けを求める
わけにゆきません。あきらめて、昔、言語進修生として半年
暮らした西院(留学生寮+ホテル)に向かいました。以前の
すさまじく汚い寮は、今はきれいに改装され、部屋代はバス・
トイレなしのツインで148元。…タオルはつかず、トイレには
紙だってないのです。帰り着きながら、アパートに入れないく
やしさ、不便さ。…これが中国だ。
 翌朝、飛び起きてカギ屋(自転車修理屋)さんに直行しまし
た。こんな時不動産屋は何の助けにもならないのは経験ずみ。
お金でかたがつくなら、そしてそれほど高くなければ、そうし
た方が早いし、確か。ところが学校そばのカギ屋さんは別件で
出張中。おばさんと世間話しながら、おやじが帰ってくるのを
一時間半ほども待ちました……これも、中国。
 
 やっと帰ってきたおやじさんのモーターサイクルの後ろに乗
せてもらい、アパートに向かいました。朝から大仕事だったの
か、彼の汚れたTシャツに手を回すと、汗の臭いがぷんぷんし
ます(合成香料の匂いよりマシだけど)。…カギは完全に壊れ
ていて、結局カギを全交換することにしました。交換代80元。
 古いカギを取り外すと、やっとドアが開きました。盗まれた
モノはないようでしたが。西院に戻ってチェックアウトし、改
めてアパートに入ると、かび臭さで息がつまりそう。真夏の一
ヵ月半の不在はよくありません……私の南京生活はこうして再
開しました。

この記事を書いた人

hiromachi