ガレキ処理、ほんとは?

 旅行している間に、こういうコメントをいただきました。返事が遅くなり、ごめんなさい。
 「今日、伊勢原清掃工場に電話で確認したのですが、秦野市伊勢原市は受け入れを拒否、おそらく神奈川県の市で、受け入れする市はないであろう、とのことでした。受け入れ表明はどこの情報ですか?お手数ですが、情報ソースを教えてください。」
 放射能汚染ガレキ受け入れ表明、全国自治体一覧に対する質問ですね。記事が長くなって、出典をつけるのを忘れていました。「ガレキ受け入れ、全国自治体一覧」で検索すると、一万ほどヒットします。中身はいずれも同じなので、ここをあげておきましょう:http://hibi-zakkan.sblo.jp/article/47419618.html
 その情報ソースは、アエラ8月8日号、特集『放射能がれきが拡散する』から。これは環境省が最初に発表した(5月?)がれきの処理受入意向調査の結果を、同社が一覧にしたようで、その時点ではおそらく間違いないでしょう。
 その後、川崎市のガレキ受け入れ騒ぎから、あわてて拒否に転じた市町村が多かったようです。「放射能汚染など想定していなかった」って。これは後付の言い訳。市町村は法的に、広域(県外)のガレキ処理はできないことは、行政マンなら知ってることだし、フクシマ近くのガレキが放射能に汚染されている可能性があることは、一般市民さえ直感でわかるのだから。どの市町村も、市民の反対が無ければ、突っ走っていたはずです。
 それで、改めて「ガレキ処理」について概観しました。また長くなりますが・・・。
 
 まず、4月の段階では、環境省の打診に対し、多くの市町村が「受け入れOK」を表明しています(これが上のアエラの記事につながった)。これを受けて政府は、7月8日、「東日本大震災により生じた廃棄物の処理の特例に関する法律案」を閣議決定しました。必要なら、環境大臣が市町村に代わって災害廃棄物を処理(焼却、埋め立てのこと)できるという特例法です。まだ未調査ですが、おそらく地方自治法、廃棄物処理法、環境基本法など関連法の改正はやっていないのでは。http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13986

 それに加え、ガレキ処理に大金をつぎ込むことを決めました。この頃までには、ガレキ処理がカネになると見た関連業界が、しきりと、「とっととガレキ法案を通せ!」などと気炎をあげていました。一方で、問題に気づいて「ガレキを持ち込むな!」との反対も各地で起き始めています。そこで、自前の焼却施設などもたない国としては、市町村を「カネ」でつるしかなくなったのです。

 政府 【被災地のガレキ処理費用は1兆円超…補助金を大幅上積み】 
2011/ 8/21 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110821-00000004-jij-pol
 ・・・当初想定の約6800億円から1兆円超に膨らむ見通しとなった。今後、 被災した公的施設の解体などが進むにつれ、がれきの量が増加する見込みとなったためだ。環境省は、災害廃棄物処理事業の補助金を大幅に上積みする方針で、 2011年度第3次補正予算案に1000億円以上を計上する方向で調整に入った。政府は、これまで補助金を出していなかった、被災した公的施設が移転する場合の解体費用も補助対象に加えることを決定。被災地では損壊したままの市役所庁舎や病院、学校が多く残っているが、解体に国の補助が出るようになれば撤去が進む見通しだ。
 こうして、8月26日、放射性ガレキの処理法、正式名称「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」、略称「放射性物質環境汚染対処特別措置法」が参院本会議で可決、成立しました。名前が示すように、土壌の「除染」という、とんでもなくカネがかかる事までこの法律の対象事業にしてしまったのです。しかし、この法律について、はたしてきちんとした審議がなされたかどうかは疑問です。というのは、この法律は、成立した時点でも非公開でしたから。(参考)2011.08.30・速報:「汚染がれき処理法」本文官報掲載/成立4日後にやっと全文を公開http://techpr.cocolog-nifty.com/nakamura/2011/08/20110826-f3c9.html
 こうして、「震災復興=汚染除去」は、産業振興策になりました。これはどういうことかというと、被災地に住民を呼び戻す必要がある、ということです。「震災復興」というのはそこに人が戻ることが前提となる=避難など認められない・・・つまり、今、おきている事象は、人命よりカネを重視する政府・産業界のいつもの姿勢を反映しているわけ。原発反対には、こういう政策分析も必要です。
 それでも、市民は根強い「ガレキ焼却反対」をくりひろげたため、困った政府は、全国自治体にガレキを受け入れるように檄を飛ばします。これに応えたのは、東京や広域連合など住民の相対的な権利が低い大都市、あるいは国との関係が密接な自治体でした。

がれき処理問題 環境省、全国の自治体を集めた会議でがれき受け入れを要請
‎FNN – 2011/10/05
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00208891.html
 環境省は4日、全国の自治体を集めた会議を開き、がれきの受け入れを要請した。(中略)この会議は、岩手県・宮城県で発生したがれきについて、ほかの自治体での受け入れを進めるために環境省が開いたもので、43の都道府県と74の市区町村などの廃棄物や清掃の担当者が出席した。東日本大震災では、およそ2,300万トンのがれきが発生しているとみられるが、放射能汚染を心配する声などが多く、すでにがれきを受け入れている山形県と10月下旬から受け入れを始める予定の東京都をのぞいて、がれきの受け入れが進んでいない。今後、環境省では、それぞれの自治体に、あらためて自治体の意向や処理可能量などについての調査を行い、被災地と受け入れ自治体との調整作業を進めていく予定。

 「環境省の調整」とは、受け入れ自治体への秘密補助金も入っているかも。そうしないと、汚染ガレキの受け入れは、住民の反対、健康被害、環境汚染、法律違反などの、いくつものリスクを抱えているから、何らかの「見返り」は必要なのです。それに応えて、環境省はこういうこと↓も約束しています。
環境省 がれき受け入れ市町村 公表しない方針
2011/11/02(水) 18:27:21.04
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20111102dde041040005000c.html  
   東日本大震災で発生した岩手、宮城の災害廃棄物(がれき)を発生地以外で処分する広域処理について、 環境省は2日、全国の自治体に行った調査を発表した。54市町村・一部事務組合(11都府県)が、「すでに受け入れている」「受け入れを検討している」と答えた。 だが、放射性物質への不安から 受け入れをためらう自治体が多く、4月調査の572市町村・一部事務組合に比べて激減した。政府目標の13年度内の処理終了は難しそうだ。調査の結果;
(1)既に受け入れている市町村――東京都と山形県の6市町村・一部事務組合
(2)具体的な検討を行っている――2市町村、(3)検討を行っている--46市町村だった。
 具体的な市町村名は「住民からの苦情が来る」という理由で公開していない。
 「内緒にしとくから、やって」というわけです。こうなると、ガレキ処理を引き受けた市町村の方も、本当のことを語りたがらないので、問い合わせや回答には文書を用いて「証拠」を取っておく必要があります。なお、ガレキ処理は民間にも委託されているし、再委託も可能ですから、市町村だけを注意していたって始まりません。全貌を見なくては。ああ、大変・・・。2011.11.12

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/