「ベント」の方が多かった、放射性物質の放出

 前記事の続き。NHK報道「危機後の大量放出で汚染深刻化」があまりに怪しいので、ちょっと調べたら、こんな↓まとめサイトがありました。かなり詳しく、資料もばっちり。 …いやあ、同じような疑問を持つ人もいるんですね。↓は記述を多少入れ替えました。詳しくは元記事を。強調はすべて山本。

まとめ http://togetter.com/li/760594 

★ 記事には「事故発生当初の4日間ではなく、その後に全体の75%が放出され…分かりました」
とあり、一見、放出量の推定値が急に4倍にも増えたように読めてしまうが、実際にはそんな怖ろしいことは起こっていない。

★ 記事中、放出量の値は「47万テラベクレル」(ヨウ素換算後の値)とされているが、JAEA
による評価値は以前から48万テラベクレル程度であり、したがって、放出総量の評価には大きな変更はない。JAEA
による以前の評価値は、例えば東電による以下の取りまとめ資料に示されている。2012年3月6日時点の評価で 48万テラベクレル(480
PBq)である

★日本原子力研究開発機構(JAEA)の放出量評価では、当初から316日以後の放出も考慮されている。以下の3つは放出量評価の資料例。いずれの資料からも316日以後の放出が考慮されていることが分かる

2011512日公開
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/anzen/shidai/genan2011/genan031/siryo4-2.pdf#page=7

201192日公開 
http://nsec.jaea.go.jp/fukushima/data/20110906_a.pdf#page=19

201236日公開 
http://nsec.jaea.go.jp/ers/environment/envs/FukushimaWS/jaea1.pdf#page=9

 で、5月12日のJAEA報告を読んでみました。分析に用いたのは文部科学省の空間線量率測定データ。この時間帯は「ダストサンプリングデータ」が無かったため、「プルームが去った後の空間線量率分布の計算と実測の比較」から求めたそうです。

 3月15日は、大量の大気放出が起こっており、SPEEDIによれば、高濃度のプルームが北西方向に流れ、降雨により高い沈着量地域を形成し、16日には太平洋側に戻っている。この事象が地表沈着核種からの空間線量率の上昇をもたらしている。そこで、この日の放出率を推定するため、プルームが海上にあり、地表からの線量寄与のみが測定される3月17日の空間線量率分布を計算結果と比較した。計算では、後日測定された雪や降水中、植物上のヨウ素とセシウムの存在比を仮定した単位放出率で行っている。この仮定は、他の短半減期核種からの線量寄与を考えると、131Iと137Csの推定放出率は、多少、過大になる可能性がある。

 報告全体を通じて、5月15日午後以降の放出についても考慮しており、「初めてわかった」なんてものではありません(9月、3月の資料は茨城県の汚染について詳述してあり、関係者必見です)。個人的には、「ベント」も放出の要因であることをはっきり認めていることに驚きました。放射性物質の放出とベントとの関係はほとんど言及されてこなかったと思っていたので。

 …最初の推定値は恐らく3月14日以前の1号機と3号機のウエットウェルベントによると思われるが、最初の推定値が15日朝のダストサンプリングデータに基づいているため、15日以前に水素爆発等で瞬間的な放出の増加があったとしても、それらは含まれていない可能性がある。15日の大量放出は、2号機の圧力抑制室の爆発音以降であり、2号機からの放出の可能性が高い。その後、放出率は減少しており、様々な対策が効果をあげてきているものと考えられる

  さらに驚きは、NHK報道の元になっている(はずの)JAEAの最新の資料。これはJAEA、気象研究所、アメリカNOAAなどとの共同研究で、英語で発表されています(日本語はないのか!)。そのグラフ(時間軸に放出量を重ねている)をみると、放出の原因は爆発とベントであることが非常に明らかなのです。なのに、報道はそこをまったく伝えていない。

 ベントによる放出の山が、爆発によるものより、大きく長いことに気づかれるでしょう。その部分訳は以下の通り(山本の超訳です。引用は自己責任でお願いします)。

「2011年3月(の地震・津波に)に続く期間に起きたフクイチ事故による放射性物質の主たる放出については、以下の結果が明らかになった。つまり:

●3月12日午後の放出は、1号機の水素爆発とウェットベントによる

●3月13日午前の放出は、3号機のベントの後に起きている

●3月14日深夜には2号機のSRV(安全大気放出弁)を3度にわたって開放したことによる

●3月15日午前と夜間、および3月16日午前の放出(山本注:要因は略してありますが、図をみると3号機のベントであることは明らかです)

 う~ん。これほど何回もベントや安全弁開放をやっていたとは…そして、それによる汚染が、水素爆発や核爆発(3号機)による放出より深刻だとも知らなかった。ベントや緊急安全弁のような代物をつける施設って、危険であることを証明しているようなものなのです(焼却炉もそう)。

 で、問題ですが。NHKはなぜ最も肝心なところを伝えず、あたかも放射性物質の量が四倍に増えたかのように誤解させる「ディスインフォメーション」をふりまくの? …これも魂胆はわかっていますけどね。「放射能問題に鈍感にさせる」「放射能と共生させる」。このあたりが目的でしょう。慣れちゃだめ。これまでにも増して神経を研ぎ澄ましておきましょう。2014.12.25

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/