甲状腺がん、危険なのは青年・成人だった

   放射能汚染を避け、東京から岡山に移住された三田医師が、「人権21・調査と研究」2015年10月号に寄稿された文章 http://mitaiin.com/?page_id=10 が、ブログにもアップされていました。非常に意味のある記事なので、その一部を紹介します。三田医師については、これ↓も見てね。
東京での生活は限界、ある医師の決断 (2014/03/08)
福島県でがんは増えていない? 国連よ、お前もか (2014/04/02)

「東京から岡山へ移住した一開業医の危機感」という記事は、2011年3月11日の地震発生の時から書き起されています。彼はフクイチ事故の前から、医師会の災害対策担当理事として、行政と事故対応について交渉を重ねてきた人でした。原発事故が起きると東京にとって重大な脅威となることを知っていたからです。しかし、行政は国の方針にそった「地域防災計画」を作っているだけで、まったく実際的に対応しようとしなかったのです。

 じっさい、今回の原発事故に対して行政はすべきことをせず全くの役立たずですが、この「地域防災計画」の「目的」が、地震、風水害に対しては「都民の健康、生命、財産を守る」とあるのに、原子力災害に対しては「都民の不要な混乱を防止する」となっていて、これが役人の行為の拠りどころとなっているのです(国の方針に沿っていると言う点で岡山の地域防災計画も同じ程度のものです。一度確認しておくことをおすすめします)。

 こういう行政の二枚舌に気づいたのも、自分で行動されたからでしょう。原子力災害の目的が「社会不安の防止」「混乱防止」なのは、事実を知った市民が暴動や革命をおこしかねないからです(実際、それほどの事態なのですが)。だから、事実は報道しないし、「安全」プロパガンダのオンパレード。批判すると「風評被害」とレッテルを貼り、反対運動は「スラップ訴訟」でつぶしてしまう。
 そして彼は、医師の世界にも、この「混乱防止」が広がっているのを知るのです。

 被曝を心配する多くの親子が首都圏から遠路はるばる岡山の当院に受診しますが、その理由は首都圏で被曝の心配に対応してくれる医師が皆無!だからです。病院に行って放射能被曝の懸念を口にすると、バカにされる、怒られる、睨みつけられる。いつも優しかったかかりつけ医の顔色が瞬間的に変わって、「母親がしっかりしないから子どもの具合が悪いのだ」と延々説教される。でも、首都圏の子どもの具合は悪いのです。母親たちは罵倒されて打ちのめされて疲れ果てて、岡山へ来て涙ながらに心配を訴えるのです。

 世界で最も放射能汚染にさらされた経験があるのが日本ですが(広島・長崎、ビキニ水爆実験、そして福島…)、日本の医学界では放射能汚染から被害者を救う治療法など研究されてもきませんでした。原発事故など起きないことを前提にしており、いったん起きてしまえば「なかったこととする」システムだからです。なので、「我が道を行く」三田医師はさぞ苦しまれたことでしょう。

 じつは医師にとっては(放射能汚染治療)未知の分野、いちばんかかわりたくない分野です。しかしこのような事態になってしまったからには仕方ありません。地域医療を担う一開業医として市民の健康被害を防ぐために尽力することはあたりまえですから、人一
倍勉強して啓蒙せねばなりません。行政のやり方では市民を守れません。そもそも医師は一般の人達よりもずっと放射線に近いところにいます。少なく
とも父や私の指導医達は患者さん第一主義でしたから、仲間の臨床医達はみなそのように行動すると思いましたが、そうではありませんでした。
医師仲間の自発性のなさと不勉強には失望しました。地域の子ども達を預かる教師たちはなぜ平気でいられるのでしょう。

 そして、彼は首都圏の家族の甲状腺検査をしてきた印象として、次のように述べています。(強調山本)

 (首都圏では)「小児(14歳以下)」には甲状腺疾患はなく、その親「成人(20歳以上」に甲状腺癌が増えています。チェルノブイリでは、本来無いはずの「小児甲状腺癌」が発生し、やや遅れて「成人」の甲状腺癌が大幅に増加しました。フクシマでは、「小児甲状腺癌」は今のところ発生していません。「青年(15~19歳)」の甲状腺癌は著明に増加しています。「成人」は検査をしていないので不明です。

 ん? 「福島県小児甲状腺ん及び疑い子供達は、3か月前前回126人から11人増えて合計137人に」なったんじゃなかった? でも、福島県が調査対象としている「子ども」とは18歳以下で、医学的には小児と青年の一部であり、患者は幼児や小児だけではなかった・・・三田医師はそれらの資料を元に甲状腺がんは14歳以下ではなく、もっと大きい中学・高校生に発生していると断言されているのでしょう。いやあ、私だって、「小児甲状腺がん」と聞いて、病床にある幼児や小児を勝手にイメージしていたけど、・・・だまされていた!(これはフクイチ事故全体に「隠したい」ことがあるのと共通しています。) 
 彼はこう念を押しています。

 フクシマ事故による東日本の甲状腺癌の現時点でのハイリスクグループは「青年」「成人」であって、「小児」で
はありません。行政に働きかけたり基金を募って小学生以下の「こども」の超音波検査をして達成感を味わっている場合ではありません。検査するなら「青年」「成人」優先であるべきです。本当は避難、保養が最優先と思いますが…

 東京はチェルノブイリ周辺都市よりも汚染されているとよく言われますが、チェルノブイリと違うのは、フクイチはなお収束しておらず、東京では日々、放射性物質を含むごみが大量に燃やされていること。室外で行動することの多い青年や成人は、それらの汚染に直撃されていることは容易に想像できます。実際、ホットスポットの周辺住人は、三田医師がすすめるように、「電離放射線検診(血液検査)」を行うべきでしょう(行政にそれを求めて運動するといいでしょう)。彼は他にも、首都圏では小児も大人も呼吸器・消化器、循環器、皮膚病などありふれた病気にかかりやすく、治りにくく、再発・重症化しやすいこと、免疫力が低下し、「チェルノブイリエイズ」と呼ばれるような病気にかかる大人もいること、などを警告し、移住・避難の重要性を強調しています。さらに・・・


チェルノブイリ事故では首都モスクワは被曝を免れましたが、フクシマ事故ではトーキョーがすっかり汚染されてしまいました。日本における最大の問題は、人々が被曝している事実を認めたくないことです。ほとんどのメディアは本社が東京にあり、このことを発信しません。東京の三田医
院にはテレビも新聞も週刊誌も映画も取材に来ましたが、記事になったことは一度もありません。彼らが欲しいのはフクシマがかわいそうだという話で、
トーキョーが危ないという話ではないのですね。
当事者は往々にして理性的な判断ができず、残念ながらトーキョーは当事者そのものです。避難、移住を呼びかける私がトーキョーに住み続けることは矛盾していました。三田医院が岡山へ移転したことで避難、移住を決意した人も多く、こちらへ来ることで始めてわかる事も多いのです。西日本、外国ではテレビ、新聞取材が当たり前のように全て記事になりました。トー
キョーにいては全てかき消されてしまう。これから私は西日本から首都圏へ警告を発し続けようと思っています。

 まあ、「お上はウソつかない」という思い込み(おめでたい)と、フクイチ・イリテラシー(無知)+プロパガンダのせいでしょうね。私もできれば移住したい。どこかいいところはない?2015.11.5

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/