広陵町のばいじんダイオキシン超過

 ちょっとひっかかるニュースが入りました。地方の小都市のごみ焼却炉で、なぜこんなにばいじんが出るのかと思ったのです。

 

基準値超えダイオキシン搬出 奈良・広陵町
[ 10/7 18:30 読売テレビ
]http://www.news24.jp/nnn/news88916910.html

奈良県広陵町のごみ処理施設が、基準値を超えるダイオキシンを含んだ廃棄物を、大阪府の埋め立て業者に搬出していたことがわかった。広陵町のごみ処理施設「クリーンセンター広陵」は先月、ごみの焼却時に発生したばいじん約9トンを、「大阪湾広域臨海整備センター」に運び込んだ。その後、大阪湾広域臨海整備センターの検査で、運び込まれたばいじんから国が定める基準値を超えたダイオキシンが検出されたという。問題のばいじんはすでに、クリーンセンター広陵に回収済みという。広陵町の山村吉由町長は「事前の自主検査では、基準値を下回っており、数値の改ざんや隠ぺいはない」としている。

 

 調べると、広陵町は人口約3万5千人。クリーンセンター広陵 広陵町は、平成192月竣工と比較的新しい。建設費は約34億円、処理量35tをあてはめると1トン1億円とかなり高い。しかも、24時間ではなく8時間の処理量です。…つまり、この炉は間歇運転。これじゃあダイオキシンが高いのは当然です。また、この施設は「ごみ燃料化(炭化)施設です」とありましたが、これは何かと思って「ごみの流れ」を見ると…なんとなんと、RDF化施設でした!(http://www2.town.koryo.nara.jp/cleancenter/nenryo.html)・・・まだこんなものが生き残っていたとは。

 で、ちょっと脱線。

  RDFとは可燃ごみを固めて燃料にしたもので、Refuse Derived Fuelの略です。国(=企業)による全国の廃棄物処理の支配計画、「ごみ処理広域化計画」の目玉として、環境省が強力推進していたものです。粉砕・熱風乾燥したごみに消石灰などを加えてRDFにすれば、ごみ発電や高炉燃料になり「ごみゼロ」に資するとウソをつき、補助金つきで全自治体に作らせようとしたのですが・・・RDFにはダイオキシン発生、炉の不具合、燃料としての質の悪さ、発熱による事故、住民の反発など、あまり知られていないけれどかなり問題が多く、たいして広がらないうちに、全国に先駆けてこの施設を取り入れた 「三重ごみ固形燃料発電所」(=北川知事のおきみやげ)が大爆発を起こしたのでした。2003年8月のこと。その迫力ある写真はこちら↓。

 

「三重ごみ固形燃料発電所、爆発」の画像検索結果

 煙と炎をあげているのは焼却炉ではなく、RDの貯蔵庫(サイロ)です。爆発は、何トンもある鋼鉄のフタを何百メートルも吹っ飛ばし、消火活動をしていた消防士2名が殉職、5名に重軽傷を負わせる惨事となりました。

 有機物を含むRDFは発酵して可燃性ガス(メタンガス等)を発生させるおそれがあり、実際に、このサイロでも、稼動直後(2002年12月)から、何回か火災が起きていました。この他にも石川県、福岡県でも、爆発には至らなかったものの、発煙、発火事故がおきています。しかし、産業界の利益のためだけに動く環境省や経産省は危険性には一切目をつぶり「夢のごみ処理技術」をPRするのみ。事故の後開かれた会議で、初めてデータ収集を求める無責任ぶりでした。(第1回 ごみ固形燃料適正管理検討会 議事要旨 日時:平成15年9月2日 https://www.env.go.jp/recycle/waste/kokei/001a.pdf)

 もっと無責任なのが、施設を運営する三重県企業庁。調査委員会が「原因は特定できない」という結論を出したというのに(これも無責任、常識でわかる)、事故から1年後の2004年9月にはさっさと運転を再開しています。

 もっともっと無責任だったのが、消防庁。桑名市消防本部の依頼を受けて調査にあたり、2005年3月にはRDFそのものが発火源だったとの調査結果を出しながら、公表はせず、施設の運転再開を暖かく見守っています。(火種はごみ固形燃料/三重・発電所爆発 消防庁が特定www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-07-03/2005070304_02_2.html)

 

 この三重ごみ固形燃料発電所 ( 桑名市多度町力尾 )がまだ稼動しています。近隣6市町村が燃料のRDFを作っていますが、上記消防庁の報告書には「26キロのRDFでこの事故と同レベルの爆発が起き得る」という指摘もあり、RDF施設は常に危険と隣あわせです。また、ごみ処理施設(高温による酸化)の立ち上げ、立ち下げ時は高濃度のダイオキシン発生することが良く知られていますが、RDF炉はその頻度が多い間歇運転であり、ごみ乾燥に使用する温度もダイオキシンが発生しやすい300~500℃であることを考えると、ダイオキシン汚染は施設周辺に広がっていることが懸念されます。なお、日経新聞の報道によれば、今も稼働中のRDF施設は全国で52、ただし2005年以降に建設されたのはわずか3炉。そのうち、北海道白老町の施設(バイオマスと称している)でも火災が発生しています(安全管理の不備陳謝 白老町バイオマス燃料化施設火災|苫小牧民報社

 

 ここで、奈良県広陵町のダイオキシン超過のニュースに戻ります。以下が市の発表:

「・・・広陵町のクリーンセンター広陵においてごみ処理の過程で発生するばいじんのうち、95日に搬出した分について、同センターが行ったダイオキシン類濃度測定の結果、基準値の3ng-TEQ/gを超え39ng-TEQ/gという測定値となり、搬入停止措置を執った旨、926日付けで通知を受けましたので、即日搬入を停止いたしました。町として、同センターの指示により95日に搬出した分について埋立前に回収し、クリーンセンター広陵の施設に保管いたしました」 クリーンセンター広陵から大阪湾広域臨海環境整備センターに埋め立て処理のため搬出した「ばいじん処理物」のダイオキシン類濃度が基準値を超過したことについて 2016107ID:2094

 

 で、この「広陵」の問題点ですが;

 ①上述のように、RDF炉は、構造上、理論上、ダイオキシンを発生させること。

 ②その上、クリーンセンター広陵は、「ばいじん(=飛灰)」を発生させる炭化炉方式をとっており、普通の焼却炉以上に汚染がひどい可能性があること(この事件が何よりの証拠。なお、炭化炉は構造的にはガス化溶融炉と同じで、低酸素状況下でごみを焼却する=だからばいじんが出る。違いは、炭化生成物を「有効利用」するところだけ)。

 ③ばいじんの量も不明(問い合わせたら「住民以外の人に説明する必要はない」だと)。

 ④住民は以上のことを認識していたか(=市が正直に説明したか)不明。

 ⑤広陵町は、ダイオキシン基準超過がわかってから2週間近くも事件を隠していた(今日、「説明会」があるそう)。

 ⑥メーカーの栗本繊工が施工した廃棄物処理施設は、他には北海道名寄地区衛生施設事務組合の炭化センターくらいで、広陵町と共に防災、汚染防止、住民周知などの観念が低かったと考えられる。

 

 この施設は、稼動期間を15年間とする住民協定があるためやがて廃止される予定です。一方、広陵町は2015年12月、広域化計画のための一部事務組合の設立を決め、今後、ごみは天理市に新設予定の巨大ごみ処理施設で処理される見込み。ということで、今は施設の「跡地利用」を協議しているようですが、焼却炉や処分場跡地は汚染がひどく、福祉・公園施設としては使えません(土壌汚染法対象。築地の豊洲移転と同じような問題が出てくる)。広域化だって、汚染源の移動・集中・累積でしかないのですが、奈良県のレベルを考えると、「調べたけど、大丈夫!」とかいって、公園とか幼稚園などにしそうだなあ・・・住民が不勉強だと、行政にだまされっぱなしだからね。明日は桑名に行くので、ついでに広陵町に足を伸ばして取材してきます。2016.10.9

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/