小皇帝は病気です

 南京はこの一週間、ずっと冷たい雨。気温は2-7℃です。
 2月19日、久しぶりに隣の部屋の隣人に会いました。母親と娘、それに
もう一人、年配の婦人がいます。誰? とりあえず、あいまいに挨拶すると
母親がいつものように、機関銃みたいにしゃべりだしました。脈絡もなく。
「彼女はおばさんよ、一緒に住むの(ええっ、あの小さい部屋に三人も?)。
だからね、ガス代も少し多く払うよ(当然、私は料理をしていないから)。
私ら、あんたのこと誤解してた。電気代は家賃に含まれているんだってね・・・。
子どもが病気なのよ。だから、夕べ私は帰って来なかっただろ?」
「子ども? 誰の子どもが病気なの?」
「この子だよ」
 朝青龍の妹みたいな娘は、心なしか一回り小さくなり、暗い顔をして後ろに
立っています。「彼女がどうかしたの?」
「なにもしゃべらなくなったんだ。で、病院に行ったら、入院だって。
今日は一時帰宅で、明日また病院に帰るんだよ」
 うすうす察しがつき、なんとなくぞっとしました。
「で、どこが悪いの?」
 すると母親は指で頭にさし、少し声をひそめました。
「精神病だよ。ほら、大学院入試のストレスって相当強いだろ?」
「・・・」
「あんた、以前ウチの娘のことを小皇帝だ、苦労させなきゃだめだと
言ってたけど、ほんとだった。考えもしなかった・・・」
 彼女はどうして精神を病んだのか。
 私は昨秋から、彼らとできるだけ顔をあわせないようにしていたので、
娘の入試結果さえ知りません。そして、彼女たちが掃除をしないことも、
二人でよく怒鳴りあうことも、電気代などを払おうとしないことも、全部気が
つかないフリをしてきました。
 この間、娘はずうっと外出もせず、狭い部屋に、24時間母親と二人で
こもりきり。22歳、おしゃれにも化粧にもテレビなどにも興味のない彼女、
ストレスをどこで発散させていたのでしょう。
「大丈夫よ、もうすぐ春。暖かくなったら元気になるわよ」
 私が言えたのはこれくらいです。本当は、「郷里に帰って、しばらく心
と体を休めたら?」と言いたかったのだけど、受け付けるはずがないので、
口に出しませんでした。中国でも、親の過剰な期待につぶされる受験生は
多いでしょうね。2009.2.22

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hiromachi