しいたけと牛乳と茨城県と

  セシウムの基準値を超えた食品が、産地を書き換えられたり、混合されて関西や九州にまで広がっている、各地の「給食」にも使われている、という話はよく聞きます。これも氷山の一角でしょう。
 幼稚園給食のシイタケで検出=基準値超の放射性セシウム―愛知
時事通信 45()2221分配信
 愛知県は5日、岡崎市内の幼稚園の給食に使う乾燥シイタケから、1キロ当たり1400ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。県によると、シイタケは茨城県産。先月までに計30キロが同市の幼稚園と豊橋市の店に販売された。幼稚園では既に消費されており、県は豊橋市に回収を指示した。岡崎市は「被ばく線量は少量で、健康被害は想定できない」としている。
県によると、豊橋市の業者が仕入れた後、加工業者を経て、今年13月に同市の卸業者に販売された。3キロ(6袋)は岡崎市の幼稚園に、残る27キロ(54袋)が豊橋市の店に売られた。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120405-00000156-jij-soci
 すごく高濃度。このシイタケがどんなルートで給食に紛れ込んだのか、記事は書いていませんが、幼稚園や保育園はターゲットになっているのではないかという気がします。そこに通う子どもたちの両親は、生活と仕事に忙しい年齢なので、給食の質などに無頓着な人が多いからです。これが小学生の親ともなると、社会にも目が向けるようになるのですが。
 
 また、給食は食品・農業・畜産・運輸業界を含む一大産業であり、学校の理事や経営者側との共同利権があるため、誰も口が出せない状況になっているのです……親以外は。
 
 給食といえば、弁当を持って来れない貧困児童に与えた昼食が起源でした。明治時代のことだから、飽食の現代にはまったくそぐわなくなっています。そこで政府は2009年、学校給食法を改正して、「学校給食の普及充実及び学校における食育の推進を図ること」を目的としたのです。つまり、以後は学校給食制度の存続させることが目的となったわけ。そのために導入されたのが、「食育」というお題目でした。
 お弁当を作らなくていいから賛成、と考えるママもいるでしょうが、食と利権、そして汚染がからみあっている今、給食制度は廃止を含む根本的見直しが必要です。少なくとも、給食を食べない自由、手作り弁当を持たせる自由を認めさせる必要があります。食材が測定されないような給食は、もう安全といえないから。
 なお、このニュースで思い出したのが雪印メグミルクの放射能汚染事件。それ以後も、乳業メーカーが線量測定することになった、という話は聞かず、政府も測定を義務づけていません。でも、ミルクには放射能だけでなく、他の化学物質も蓄積されやすいし、これが毎日給食で出されていることを考えると、とんでもない状況です。で、この件を調べていたら、仰天するニュースを発見しました。雪印は、この汚染シイタケが採れた茨城県に、アジア最大規模の乳製品工場を着工していたのです。
「東洋一のチーズ工場」が起工、雪印メグミルクが阿見町の乳製品統合新工場 2012/02/15
 雪印メグミルクが茨城県阿見町に計画している乳製品統合工場建設工事の起工式が14日、現地で開かれた。「乳製品の生産工場では東洋一の規模」(同社広報部)となる次世代型食品工場が2014年度下期には誕生する。設計施工は戸田建設が担当。準備工事を経て3月に着工し、14年度上期の一部ライン稼働、同年度下期の全ライン稼働を目指す。(中略)
 神事後の祝賀会で、中野社長は「原料の保管機能を併設することにより原料から生産、物流まで一貫した画期的な最新鋭の工場となる。この工場でつくるプロセスチーズ類やマーガリン類を全国津々浦々にお届けし、消費者の皆さまに健康と笑顔をお届けしたい。地域とともに発展していきたい」とあいさつした。白井専務は、「施工に当たっては安全第一に無事故・無災害でお約束の工期内に必ずやご満足いただける高品質の建物を完成させたい」と決意を述べた。来賓の橋本昌県知事は「東洋一のチーズ工場、誇りに思えるチーズ工場に発展していただきたい」と語り、天田富司男阿見町長も「雪印メグミルクとともに町の21世紀を発展させ、人口5万人を目指していきたい」と期待を寄せた。工場は、S造4階建て延べ3万6000㎡の製造棟、S造3階建て延べ2万1000㎡の物流棟(立体倉庫)、S造2階建て延べ3000㎡の厚生棟で構成し、総延べ床面積は約6万㎡。生産物量は年間約5万tを見込む。土地取得費を除いた投資額は275億円。建設地は阿見東部工業団地内の阿見町大字星の里の敷地約11・4ha。(後略)
http://kensetsunewspickup.blogspot.jp/2012/02/blog-post_15.html
 阿見町は霞ヶ浦の南にあたり、そのすぐ西隣の牛久市とともに、茨城県で放射能線量がもっとも高い地域です。ダウンロードファイル 茨城県全域の土壌放射能濃度マップ(セシウム134セシウム137の沈着量) 9月22日測定結果をのせたこのマップには、「凡例(数値)は、今回調査の1地点の測定値であり,その市町村全域を表すものではない」とのただし書きがあります。でも、その他の農産物の線量マップと重ね合わせると、同地は茨城県内でも、線量が高い地域であることは否定できません。そこに「原料から製品まで」の一貫工場建てるというのは、大胆不敵、というか、無謀じゃないの? なんで?
 そしたらこういう記事が目につきました。
雪印がチーズ製造の3工場を閉鎖、茨城の新工場へ機能統合

2010年11月 8日 01:45 | | , ,


雪印メグミルクは、チーズやマーガリンを製造する3工場を閉鎖し、新設する茨城の工場へ生産を移管すると発表しました。対象となるのは神奈川県横浜市の「横浜チーズ工場」、同厚木市の「厚木マーガリン工場」、兵庫県伊丹市の「関西チーズ工場」の3工場で、2013年下期をめどに茨城県阿見町にて建設予定の新工場へ生産移管する方針。250億円を投じ建設する新工場は、プロセスチーズやマーガリン類の製造を主力に年間約5万トンの生産量を見込むほか、交通の利便性を生かし倉庫機能を持たせるなど、これまでよりも効率的な設計となっているとのこと。
http://www.fukeiki.com/2010/11/snow-brand-close-3plants.html

 なるほどね、地価の安い茨城県に施設を集中して、新規まき直しを図ろうとしたのか……ところが土地取得も終わり、着工を目前に控えていた2011年3月、東北大地震、そして原発爆発事故が発生。不運な雪印…でも、この時点で、計画続行か放棄かのシビアな議論があったはずですが、同社は一年遅れでの着工を選択します。常識では考えられない決断を下したのはなぜか?
雪印メグミルク/次世代型生産物流体制の新工場着工を1年延期
2011年10月13日
雪印メグミルクは10月13日、2010年11月に公表した乳製品事業の次世代型生産物流体制としての新工場建設を1年延期した。投資計画は、今年3月着工、2013年度下期の全ライン稼動計画していたが、東日本大震災を踏まえ、設備設計前提や設備仕様の設定等を中心として全面的に再検討を行ったもの。その結果、建物面積の増床や設備仕様の変更等により、投資額は25億円増え275億円とし、工事着工を2012年3月、全ライン稼働を2014年下期に変更し、横浜チーズ工場、関西チーズ工場、厚木マーガリン工場の閉鎖時期も2013年度下期から2014年度下期に延期する。なお、投資計画は事業基盤の強化に向けて効率的な生産物流体制の構築に取り組むもので、昨年12月に取得した茨城県稲敷郡阿見町(阿見東部工業団地)の用地に、プロセスチーズとマーガリンを製造する新工場を建設する。また、新工場の敷地内に基幹倉庫を併設することで、原料から製品までのトータルのSCMに取組み、次世代型食品工場を構築し、市場競争力の強化を目指す。
http://lnews.jp/2011/10/42612.html
 そこにはおそらく政府や茨城県の度重なる説得があったはず。同社は阿見工場団地の最大の面積を占める顧客であり、ここが逃げ出すと、他社への影響も大きく、茨城県は必死だったはず。また、原発収束宣言を急いでいた政府も、安全性のアピールのためにも、同社の着工・経営を強く望んだはず。現地の阿見町も、雇用を見込んで引きとめたのでは。もちろんそこには、税や土地に関する優遇があったことでしょう。それに同社自身が、メグミルクの汚染で評判を落としてしまっていたのです。それらを総合的に判断して、原計画で行こう!となったのでは。
 でも、その判断は間違い。完全なまちがい。
 だって、そこで生産されるのは食品だから。それに、同社は原料の線量は測定しない、と言い切っているから。また、県内でもっとも汚染がひどい地域で「原料から製品まで」を生産するから。さらにさらに、ここで生産された食品が、さまざまなルートで消費者や学校給食のテーブルに届くから。
 雪印メグミルクは、予防原則に照らして原計画を放棄し、TEPCOに保障を求めればよかったんです。今からでも遅くないので、そうしてほしい。でなければ、消費者は自主防衛のために、このブランドを頭から拒否することでしょう。2012.4.6

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/