自然エネの落日―英政府、補助金カットを決定

 イギリスがEU離脱と共に「自然エネへの過剰な補助金」を打ち切る用意を進めている、テレグラフ紙がそう報道しています。以下、http://www.telegraph.co.uk/news/2017/04/14/britain-preparing-scrap-eu-green-energy-targets-part-bonfire/をもとにした山本の論評です(翻訳ではないのでそのつもりでお読みください)。

 イギリスでは、グリーンエネルギーにつぎこんだ補助金のおかげで、一戸当たりの電気料金が平均で100ポンド(約14,000円)も値上がりしているそう。このままEU指令にもとづいて「2020年までに全エネルギー源の15パーセントを風力と太陽光でまかなう」との予定が実行されれば、電気料金はさらにあがるでしょう。閣僚はこのエネルギー達成目標に強い不満を抱いていたそうです。なぜなら、「その計画から原発が除外されていたから」。なので、自然エネにブレーキをかけたところで、下手すると、再び原発ルートに戻ることもありそう。南オーストラリアと同じです。

 イギリスがEUに残留している限り、「EU再生可能エネルギー指令(EU Renewable Energy Directive)」を守らねばならず、今も目標が達成できない部分は罰金を払い続けているようですが、これがBrexit(EU離脱)でゼロになるわけです。規制と全体計画でせまってくる「グローバル化」はなかなか恐ろしい。

 このBrexit後のイギリスが「自然エネ補助金カット」の方向性に向かうということがわかったのは、国際貿易局職員の行政文書の中身が漏れたためだったようです。そこには「すべての分野で優先されるべきは貿易と経済成長ーーこの分野における開発能力を最大限に優先させなければならない。気候変動や野生生物の違法取引のような仕事などは縮小されるだろう」とあったそう。また、ブルームバーグも今月初め、財務省、ビジネス、エネルギー、産業戦略部の官僚の話として、再生エネルギーの目標削減を議論していることを暴露していました。

 EU指令が実行された2009年のイギリスの再エネはわずか3%、2020年までに15%を達成するには、政府は風車、太陽光、バイオマス(山本注:森林破壊と廃棄物発電を意味する)に何万ポンドもつぎ込まねばならず、その費用は最終的には市民につけまわされます。この政府によるグリーンエネルギーへの補助金は、2020年までに一戸あたり110ポンド(約15,700円)に達すると、国家監査局は計算しているとのこと。元環境庁長官のオーウェン・パターソン氏(保守派)は、「再エネはエネルギー市場全体を歪めている。それは、最貧層の人々のカネを、巨額の補助金で建設されている風車推進の富裕層に送金するものでしかない。これ(再エネへの補助金カット)が実現されると非常にうれしい」と述べています。

 ところで、ひとつの国がグローバル組織から足を洗うのはなかなか大変そう。

 下院の報告によれば、今後、イギリス政府はEU離脱法案(Great Repeal Bill)の一環として、憲法綱領に19,000のEU規則と規制を導入する必要があるそう。EUの規制によって、英国は年間約1200億ポンド以上の費用が発生していると見積もられており、共通農業政策だけでも100億ポンドの直接経費がかかり、食料価格の上昇を招いているのだそうです。2019年の離脱達成後、これらの法制度をのメリットが評価され、排除するかどうか決定されることになっていますが、もともと、歴史も風土も習慣も全く違う国々を統一ルールの下でコントロールしようというのが間違い。その枠組みの中で強制されている「自然エネ」は、まさに全体主義の産物だというしかありません。2017.4.28

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
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