戻らないミツバチ:政府はネオニコチノイドの毒性を知っていた

 鳥と魚の大量死問題でアメリカ農業省の関与について書きましたが、もうひとつ、政府がらみの、非常に深刻な環境破壊があります。それは、ここ数年問題化している、ミツバチのコロニー崩壊現象です(CCD:Colony Collapse Disorderと呼ばれています)。これは、花粉を集めに行った働き蜂たちが、何らかの理由で巣に戻らず、幼虫の世話をするハチがいなくなり、巣が崩壊してしまうというもの。すでに世界中に広がっており、ミツバチの受粉に頼る農業に対する打撃は深刻です。
 その原因として、ウイルス、ダニ、ストレス、GMO、農薬、気候変動、電磁波の影響などがあげられてきましたが、最大の疑惑がもたれているのが、「ネオニコチノイド」という農薬でした。これは害虫の中心神経系統をかく乱して、その繁殖を抑えるというもので、殺虫剤に比べて、他の生物への毒性は弱いというのが「売り」でした。同様の農薬にイミダクロップリッド、クロチアニデンがあります。
 しかし実は、ネオニコチノイドに浸された種子が成長すると、植物全体に農薬がまわり、その花粉や樹液を集めるミツバチが、汚染を拡散するという問題がありました。もちろん、ミツバチ自身も、神経系統を害され、巣に帰ることができなくなります。
 果たして、1994年、このイミダクロップリッドが導入されたフランスでは、ミツバチが激減し、1995年から2001年の間に、巣箱あたり75kgから30kgにまで落ち込みました(ミツバチは重量換算なのですね)。フランス政府は1998年にはその原因調査に着手し、確たる因果関係を発見できないまま、イミダクロップリッドをひまわりやトウモロコシへの使用を禁じました。ドイツやイタリアでも同じような使用禁止措置をとっています。
 これに対し、バイエル社は2003年、「新世代農薬」としてクロチアニデンを開発。これはネオニコチノイド系列の農薬中、毒性が最も強いとされ、EPAの化学物質安全、公害予防部の科学者でさえ「(クロチアニデンの)最大の問題は非ターゲット昆虫(ミツバチ)に対するもの」、「ミツバチは幼生に対して、経口毒性、接触毒性とも非常に強い」とする警告を出していました。
 しかしEPAはこれらの意見を握りつぶしてクロチアニデンの農薬登録を許可、どうもこの時点から世界中でミツバチの大量死が目立ち始めたようです。これらの秘密文書が―おそらく内部告発で―明るみに出たのは2010年12月。アメリカ政府(EPAもFDAも)はバイエル社の当初アセスのいい加減さもネオニコチノイドの毒性を百も承知で、ゴーサインを出したのです。
 日本ではCCDはまだ正式には確認されていないし、「他の原因」に執着する評論家や科学者も多いようですが、化学工業会の影響下にあるこれらの人々と違って、養蜂家はその原因を直感できるはず。環境問題は政治問題です。危険な農薬もGMOも、もう一部の環境活動家のささやかな反対でなんとかなるものではなく、政治的解決をはかるべき時です。それにしても、原資料を見ると背筋が凍る思い・・・2011.1.31
(参考の一部)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9C%82%E7%BE%A4%E5%B4%A9%E5%A3%8A%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
http://www.naturalnews.com/030921_EPA_pesticides.html#ixzz1C11PpbnZhttp://www.fastcompany.com/1708896/wiki-bee-leaks-epa-document-reveals-agency-knowingly-allowed-use-of-bee-toxic-pesticide
http://www.fastcompany.com/1709815/why-has-the-epa-allowed-a-bee-killing-pesticide-to-stay-on-the-market

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
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