南京だより:「裁判員制度」をごぞんじですか?
先日、日本語科の三年生に「裁判員制度のことを教えて」と
聞かれました。作文の宿題で賛否を書かなくてはいけないけど
、新しい先生(日本人・男性)の説明がよくわからないという
のです。
そういえば、友人の一人がこの制度の主導者の一人だったっ
け。当時は「参審制」の議論だったはず……それが来年から施
行されるのですね。生徒によれば、「裁判員も決定に加わるん
ですよ」。えっ?
おかしい。
今の日本の司法制度で、市民を判決に加えられるのか?
とにかく、簡単に三権分立、司法の独立、日本の憲法につい
て説明し(必須事項ですからね)、詳しくは次回、説明するこ
とにしました。
調べて、唖然としました。あれほど市民参加をいやがってい
た政府は、突然、陪審制に近い制度をとり入れたのです。「裁
判員の参加する刑事裁判に関する法律」(平成十六年五月二十
八日法律第六十三号)は、私に言わせると違法違憲のオンパレ
ード。
まず、「裁判員制度」とは、殺人、放火などの刑事裁判に市
民を裁判員として服務させる制度です。裁判員に選任されたご
く普通の市民が、プロ裁判官と共に「合議体」を構成し、有罪
か無罪か、有罪の場合、量刑をどうするのか決めなければなり
ません。
「裁判員」に選定されたら特別の理由がない限り、国民には
出廷の義務があります。服務の義務、つまり、国民としての義
務。……憲法にはこんな義務、書いてありません。憲法規定以
外の義務を、しかも裁判権に直接関係する義務を法定してしま
うなんて、違憲じゃないか!
「人を裁くことなんかできない、量刑も言渡せない」という
人もいるでしょう。ところがこの制度は、そんな人もむりやり
死刑を含む判決に加担させるもので、思想の自由を大きく侵害
します(無罪を主張しても多数決で決定)。これまた憲法違反
。「裁判官の職務」も変わってくるでしょうに。
ところがこの件、なぜか憲法論議が見当たりません。改憲に
つながりかねず、法曹関係者も憲法論議を避けたのかもしれま
せん。いずれにしても、違法を黙認していることになります。
深刻です。いちばんひどいのは、違憲判断を下す権力をもつ最
高裁が、この制度をPRしていること。これで裁判制度を信じろ
ったって、信じられるか…
「裁判員制度は法制審議会にもかけられていない」との論も
ありました。内閣法制局は通したのでしょうが、ここは最近、
違法立法局と言ってもいいくらいになっていますから。
対象事件は極めて恣意的に選ばれる可能性があります。なに
しろこの制度は地裁だけだし、対象になる事件は、裁判全体の
わずか3%(年間)との試算もあり、公判前整理手続で事実関
係が整理されたものに限られますから。もちろん、法令の解釈
及び訴訟手続についての判断は裁判官に委ねられるので、裁判
員は事実上、有罪判決を支持する役目だけが求められていると
しか思えません。
こんな特例的な制度を、大金を使って、しかも全体の法制度
を崩す形で導入するわけです。政策の整合性や、制度導入のた
めのアセスをきちんと行っていれば、決して導入されることは
なかったでしょう(アセスは環境だけではなく、法律にも導入
されます。日本だけはやっていない)。
他にもありますが、長くなるので最後に:
裁判所は毎年、「裁判員」の候補者リストをこさえます。資
料は行政からのお取り寄せ。裁判所はさらに、裁判員に選定さ
れた市民に対し、詳細な「質問書」を出すことができ、市民は
これに答えなければなりません。要するに、裁判所は今後、市
民のプライバシー情報を手にすることができるわけです。その
資料の扱いについては(保存年限や公開請求など)特に決めて
ありませんが、宝の山ですから、きっと水面下でいろんなとこ
ろに流れてゆくことでしょう。
制度開始の前に止めなきゃと思いました。憲法を大事にした
いみなさん、今、法律レベルで憲法の核心が崩されて行ってい
るのに気づいて下さい。2008.11.4