処分場計画 下流の辰野町が反対運動(長野県)

 諏訪湖周の広域一廃ごみ処分場計画がまだゴタゴタしているようです。この計画については本ブログ「辰野の処分場計画、白紙か?(長野県) | WONDERFUL WORLD」で計画中止の可能性を書いておきましたが、推進側はあきらめず、騒ぎは拡大している模様。

諏訪・ごみ最終処分場計画 下流の辰野町が反対運動 組合との溝深く、遅れ必至 /長野

毎日新聞

  岡谷、諏訪、下諏訪の2市1町でつくる湖周行政事務組合(組合長=今井竜五岡谷市長)が諏訪市湖南の板沢地区に計画する一般ごみ最終処分場を巡り、予定地の下流域に位置する辰野町が全町を挙げた反対運動を展開している。5月に組織した竜東(天竜川東側)4地区による「板沢地区最終処分場建設阻止期成同盟会」は一貫して「計画の白紙撤回」「分水嶺の有賀峠の諏訪市側への建設」を求め、組合は「現状での方針変更はない。丁寧に説明し、理解を得たい」。両者の主張は平行線をたどっている。【宮坂一則】

 「水源(板沢川)を汚染される。辰野町民は怒りに燃えている」「辰野町側ならいいという、諏訪人の良識を疑う」--。今月3日、辰野町役場であった、副組合長の金子ゆかり諏訪市長と建設阻止期成同盟会との初の懇談会。出席した同盟会や町民約60人からは、反対が相次いだ。同盟会顧問の加島範久辰野町長も「長年この地に生き続ける住民の思いを十分理解してほしい」と強く迫った。金子市長は候補地選定の経過を説明し、「辰野町の皆さんの同意がなければ(建設の)執行はできないと思う」「意見や候補地再考を求める声を持ち帰り検証する。今後も、機会を捉えて対話をしていきたい」などとした。しかし、建設予定地の板沢区との話し合いの中で「(正式に)決着するまで公表をしないで」と約束していたことなど、秘密裏に話を進めていたことも明らかになり、「言い訳ばかりせずに早く中止しろ」との怒声も上がるほど、辰野町の反発は強まった。

 反対の大きな理由に、1962(昭和37)年にあった「し尿捨て場紛争」もある。し尿処理に困った諏訪市は有賀峠の辰野町側にし尿捨て場を計画し、水源が汚染される懸念から町民が猛反対。しかし、県の仲裁もあり、一時的な施設が辰野町側に建設された。林龍太郎期成同盟会長(64)=平出区長=は「諏訪の人は同じことを繰り返すのか。辰野町民は忘れていない」

 当初のスケジュールでは、2020年度中に建設を終え、21年度からの焼却灰埋め立てを予定している。それに沿って今年夏までに行うはずだった事前調査と、並行して進める予定だった調査・設計は、辰野町の合意が得られず、手つかずの状態だ。計画の大幅遅れは必至で、伊藤祐臣組合事務局長は「硬直した関係を和らげるには信頼関係を築くことが大事。温度差をなくす努力を一つ一つ積み重ねたい」とする。林会長は「公表から9カ月経過しても組合の態度は変わらないし、論点を隠そうとしている。私たちは辰野町側でなく、有賀峠を越えない諏訪市側で、と求めているだけだ」。組合と辰野町の認識の違いをどう埋めていくか、今後の大きな課題だ。

■ことば [ 湖周行政事務組合の一般ごみ最終処分場]

 昨年12月に本格稼働した、2市1町(約12万人)の可燃ごみ焼却施設「諏訪湖周クリーンセンター」から発生する焼却灰を埋め立てる場所として諏訪市の板沢地区に計画されている。地面を掘削し屋根で覆った「クローズド型」で水を外部に出さない構造にし、30年間使う予定。昨年10月の公表後、「住民の不安が払拭されない」と辰野町を皮切りに町議会、関係区などに反対の輪が広がった。湖周組合は、今年1月開始予定だった地質や生活環境への影響などの事前調査を先送りした。

 

 公害施設は人口の少ない山林農村に押し付けろ、というセオリー通りですね。そして、「水面下工作」「情報隠し・操作」「ウラ約束」のような、「いつもの手段」が駆使され、予定地公表後は一挙に「説明会」を開き(「関係者」はうんと狭くする)、「説明は済んだ」として着工する、という筋書きでしょうか。・・・こういうことを民間企業がやれば、詐欺だし、普通は事業中止に追い込まれます。ところが事業者が行政だと、あからさまなウソをつこうが、資料を隠そうが、事業は「粛々と」進められます。もちろん、公務員の場合は、説明責任を果たさないのも、根拠がない事務をやるのも、すべて「違法」ですが、市民にはそれを正し、追及するだけの力量がないことから(内部の敵もいたりして)、やられてしまうことが多い。「前例に学」んだかということですね。

 なお、辰野町の反対規制同盟は、二ヶ月前に発足したばかり。それを伝える新聞記事から一部拾うと:

・・・発足会には約30人が参加。役員体制は、各区役員および同じく計画撤回を求めている町議会の地元議員ら27人。会長には林龍太郎・平出区長を選出した。同会側の要請を受けた加島町長、岩田清町議会議長が顧問に就いた。経過や運動趣旨の説明に続いて「板沢から流れ出る水は下流域の水田を潤す生活用水で(中略)、町としても誇り得る財産。竜東地区の総意として、組合に対し計画撤回、計画を進める事前調査・測量に着手しないことを強く求める」とする決議書を全会一致で決議。「団結頑張ろう」とこぶしを突き上げた。林会長は「期成同盟会の発足で、処分場問題に関する情報の共有や反対運動の『見える化』が図れると期待している。諏訪の皆さんを含め地域に関心を持ってもらうことが大切であり、計画撤回へのアピールに加えて組合側との対話も検討したい」と述べた。加島町長は「住民の理解が得られていない限り、計画を認めることはできない。町も意を同じくして取り組む」とあいさつした。

 と、町長、議長、区長、つまり住民挙げての反対です。それも、「板沢の水は下流域の水田を潤す生活用水で、町としても誇りえる財産」という、きわめて常識的な認識から出発しているのがすばらしい。これを、私が今、関係している鳥取県米子と比べると・・・辰野は一廃、クローズド型、米子は産廃、管理型。辰野は処理水は川に放流せず、米子はすでに数十年も塩川に流しっぱなし。辰野は山間にあり水流は限られていますが、米子は大山伏流水が豊かな地域で、著名な水汲み場がたくさんあります。それなのに、米子では関係自治会は沈黙(住民は反対署名に応じてくれていますが、自治会長は沈没したまま)、米子市長に至っては、「処分場は産業に必要だ」「県が必要というなら米子市有地は差し出す」「市民の反対はおかしい」だもんね。

 いずれにしても、諏訪のこの事業は「組合と辰野町の認識の違い」なんかではなく、「下流自治体」の反対だけで止まるはずです。それを確実にするには、住民が地方自治法の知識を得ることと、「代替案(オルタナティブ)」の提案だと思います。

2017.7.17

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
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