ドイツの再エネ・プロパガンダ

 先日、ドイツの放送局ARDによる「風力発電の実態」についての記事( ショック!「脱原発・ドイツ」の、ダーティな風力ビジネス (09/29) をアップしましたが、それを完全否定するようなヨイショ記事が出ていました。ドイツが国をあげて取り組んでいる再エネ(エネルギーシフト)は、経済を活性化し、過疎の地域を元気にし、市民もメディアもエネルギーシフトを支持している…のだそう。ドイツ在住の日本人ジャーナリストによる記事ですが、以下、風力の部分だけ抜き出しました。マーカー山本。

 

ドイツの脱原発ーエネルギー政策の大転換

 http://www.speakupoverseas.net/abandoning-nuclear-power-generation-in-germany/

脱原発―政治の歩み

 ドイツの脱原発は3.11後に決まったと思われがちだが、実は「社会民主党」と「緑の党」が、1998年に16年ぶりの政権交代を果たした時の選挙公約だった連立政府は、電力会社と合意した脱原発を、省エネと再生可能エネルギー普及の2本柱で進め、脱原発法を制定した2009年に交代した保守政権のメルケル(Merkel)首相は、原発の稼働延長を決めていたが、3.11をきっかけに撤回し、20116月には「2022年までに全廃」と法律を改正した。安全審査を委託した「原子炉安全委員会」からの「ドイツの原発は福島の事故に照らしても高い安全措置が講じられている」という報告ではなく、「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」による「ドイツでは、リスクのより少ない技術と環境・経済・社会に配慮した仕方によって、原子力を代替できる」という提言を優先して、決断したのだ。

社会を変革するための「エネルギーシフト」

 ドイツの再生可能エネルギーは、2000年施行の推進法のおかげで急成長し、2014年には総電力消費量でトップになった。ドイツと類似の推進法は、日本でも同時期に議員立法で出されたが、経産省など電力利権勢力から潰されたために、世界で大幅に出遅れている。「ドイツは原発を減らしながら、フランスから原発の電力を輸入している」とよく言われるが、実際はその逆で、対フランスに限らず電力全体の輸出が輸入を上回っている。出力調整ができない原発のために、風力や太陽光発電を停めなければならない日もあるくらいだ。ドイツは地域主権なので、過酷事故のリスクや送電ロスが大きい巨大な発電所から、リスクを分散する地域分散型の再生可能エネルギーに移行しやすい。地域内で循環する資金が、経済の活性化をもたらし雇用も創出するので、少子高齢化が進み人口減少に悩む地域が元気になったという。補助金や交付金に縛られた中央集権制の日本では、特に難しい点だ。省エネも再生エネルギー普及も、ドイツの得意分野である技術革新を促し、競争力を高めて輸出を伸ばし、新たな雇用を創出してきた。このようにドイツの「エネルギーシフト」は、2~3年ごとに異動する経産省の官僚が、有識者を集めた審議会でシナリオ通りに決定する日本のエネルギー政策とは大きく異なる。雇用対策や自治体の在り方までも視野に入れた、長期的かつ包括的な社会変革手段なのである。

「脱原発」を支える市民とメディア

「エネルギーシフト」の主役は、脱原発政権を選んだ市民たちだ。その舞台は、自治体に限らず学校、住宅、鉄道、銀行、スーパー、警察など社会全体におよぶ。大規模なデモもあり、市民たちを支える強い味方がメディアである。(中略)

ドイツの脱原発デモは、3.11後に4大都市で過去最大の25万人を記録したが、公共放送による告知の効果も大きかったに違いない。最近は、隣国ベルギーの欠陥原発に対し、国境を越えて自治体連合が提訴しデモも頻繁にある。今年6月のデモでは12歳の少女から、「公共テレビの『こどもニュース』で脱原発デモの告知を見たから参加を決めた」と聞いた。ことほど左様に、メディアは脱原発デモに貢献しているのだ。また、警察も非常に好意的で全面的に協力してくれる。「脱原発活動は公益に奉仕する」とみなされ、税法上も様々な特典が与えられるので、全国各地に多くの団体がある。2013年にはドイツ在住の日本人たちも、「さよなら原発デュッセルドルフ」という登録公益社団法人を設立している。(中略)100万年の安全管理が必要な核廃棄物」(ドイツ連邦環境省)という負の遺産を押し付けられる子どもたち、さらにそれ以降の世代のためにも、今「エネルギーシフト」のあり方が、待ったなしに問われている

 

 「日本の再エネは世界で大幅に出遅れ」と聞いて、風力発電によって被害をこうむっている人々はカンカンに怒るんじゃないか。日本でも地域によってはすでに風車が林立しているのです。しかもそれらの地域は、経済活性化や雇用創出で潤おうどころか、不動産価格下落から家を捨てる例もあるくらい。体調不良や死亡、自殺といった例も聞こえてきます。ドイツ在住なら、風車のもたらす「負」の面--反対運動、訴訟、腐敗、違法性ーーに気づかないはずはないし、ジャーナリストならARDの放送を見ているはずですが、そこには一切触れずに「エネルギーシフトを進めよう」とは、再エネ・プロパガンダです。

 「反原発派」「脱原発派」は、原発という大悪をなくすためには風力という小悪は許せる、と考えているフシがあります。でも、経営陣はほぼ同じ、当然、事業のやり方もほぼ同じ。地元ボスにカネをばらまくのも、反対者をふみつぶすやり方も、被害を無視するのも、協定など歯牙にもかけないのも、・・・全部、原発と同じなのよね。こういう「現実」を見ないから、日本では市民運動が根付かないのだ。2016.10.14

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/