米子産廃、廃掃法手続き延期の意味

 鳥取県が計画している「米子産廃処分場計画」、その事業主体である県環境管理事業センター(以下「センター」)が、今年7月に予定していた廃棄物処理法にもとづく許可申請を延期したそうです。

 

事業の許可申請を延期 県センター、淀江産廃計画

2020125 日本海新聞

 米子市淀江町小波で計画される産業廃棄物管理型最終処分場を巡り、事業主体の鳥取県環境管理事業センターは24日、倉吉市内で理事会を開き、廃棄物処理法に基づく許可申請について時期を定めず延期することを決めた。7月の申請を目標にしていたが、県が計画地の地下水が水源地に流れ込まないかなどを調べる調査会を設置するのを受けた対応。 センターは、調査会による調査の動向や進捗状況に合わせて今後の事業スケジュールを調整したい考えを説明。理事からは処分場建設が遅れることに難色を示す意見もあったが、全会一致で承認された。センターは2020年度に予定していた法手続きの申請書作成を一時休止し、調査の経過を見ながら申請に向けた予算を県に求める。地域振興計画や環境保全協定に関する関係6自治会との協議は継続する。広田一恭理事長は「米子市長から土地使用承諾の条件に地元への説明があり、県議会からも地元の理解を深めるよう付帯意見があったことと照らし合わせ、調査会の動向も見ながら進度調整をしたほうがいいと考えた」と話した。

 

 「地下水の調査会設置」が理由とのことですが、今の段階で廃掃法の許可申請などできるはずはありません。

 なぜなら、この計画は、①鳥取県という地方公共団体が、②産業界のために、③市民の反対を押し切り、④血税を使って、⑤水源地に公害事業を誘致するというもので、著しく法的正当性を欠いているからです。それなのに、現地では(鳥取県でも米子市でも)それらの法的問題について何一つ議論がされていない。それどころか、県市はそのような問題があることさえ気づかないフリで通している・・・まあ、それに騙される県民も県民ですが。

でも、何度でも言っておきます。この事業は違法です。

 下は山本が考える「違法性」の根拠の一部。 

  1. 鳥取県が現段階の手続きの根拠としている「鳥取県紛争予防条例」鳥取県廃棄物処理施設の設置に係る手続の適正化及び紛争の予防、調整等に関する条例及び施行規則(PDF,210kb)  そのものが違法。これは、アセスや廃掃法での紛糾を避けるために制定された事実上の「事前許可制度」なのです。同条例は、説明会の開催地域や「関係住民」をきわめて狭くとることによって、反対派やより多くの県民意見を封殺できようになっています。その一方で、ごく少数の地元有力者などに「承諾書」を出させ、それを以って「地域合意」としているため、いったん廃掃法の手続きに入ったら、ノンストップで「許可」まで行くという寸法・・・汚いやり方ですが、他の自治体でも似たようなケースは多いでしょう。

  2. また、同条例は「アセス」と同時進行で実施されるなど、運用面での違法性も際立っています。なぜなら、アセスは、その事業による環境影響をシビアに判断するために、本来、あらゆる開発事業計画の「最初」に行わなければならないからです。一方、紛争予防条例は「廃棄物処理施設の建設」が前提。したがって、アセスの目的と完全に矛盾している手続きを同時進行させるのは、法的整合性がないだけでなく、アセスの存在意義を完全に否定するものです。

  3. 産業界のために、県が土地や費用を提供して産廃処分場を造るのは、廃掃法第十一条(事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない)違反です。なお、同条3には「都道府県は、産業廃棄物の適正な処理を確保するために都道府県が処理することが必要であると認める産業廃棄物の処理をその事務として行うことができる」と規定が加えられていますが、廃掃法はもともと都道府県の関与は「技術的助言」に制限しており、これは廃掃法の趣旨に反するきわめて悪質な改悪です。

  4. ↑に関してもひとつ。事業者でもなく、産廃を生み出すわけでもない県に特定の産廃処理を認めるのは、「業界(=国)に従え」という意味で、その裏には多額の県費を吸い取ろうとする業界の思惑と、フクシマ原発及び解体に面した多くの原発から出る低レベル、高レベルの放射性廃棄物の処理の問題(=国は全国拡散しようとしている)があります。当然、この国の意図は、汚染物質の発生・拡散を阻止する多くの環境法令、そして地方自治法に違反しますけどね。

  5. 都道府県が「広域自治体」の看板を振りかざして、市町村を脅すのも地方自治法違反。いかに当地の市町村長が無知で低レベルでも、地方公共団体の責務は地域住民の福祉の増進にあり、その市町村に公害事業を押し付けることは地方自治法違反です。さらに、憲法は、 「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を住民に保障しており、その権利を侵害するこの事業は明白な憲法違反なのです。

  6. 県市それぞれの公共財産を管理する規定に違反しています。予定地の半分は米子の市有地、一部県有地もあり、さらに公共用道路もあるため、県、市、事業者は、当然、その公共財の現状と処理について関係する県民市民すべてに情報を提供し、その意見を聞かなければなりません。実際は、県は2016年に公開された事前協議書から、「米子の市有地」の部分をすべて抜き取った(隠ぺい以上に悪質な情報隠し)前歴があります(のちに市民の抗議で公開)。私は、この件で知事や市長が以後もこの件を「議論不要」としているのは、詐欺罪、不動産(公共用地)侵奪罪に当たると考えています。これは、たとえ未遂でも有罪だからね~

 つまり、これらの違法性について何も触れないのは、米子産廃事業がこれまで正当な手続きで行われてきたかのように見せかける、「だまし」といえます。引き続き、現地住民は勉強しないとね。 

 なお、上の2と4に関して少し政治的なことを追記しておきましょう。

 詳細は書きませんが、日本以上の老朽原発や核武器廃棄物を抱える宗主国・アメリカは、「極東の島国」を米の処分場にしようとしています。そのことは、沖縄や横須賀などでの基地汚染や原発寄港地汚染事件を見れば、アメリカが日本という属国をどう見ているかきわめてはっきりしています。なんといっても、対米追従政権が続き、独立したメディアがなく、そして唯一、「米軍、出ていけ!」の声がない日本は、アメリカにとってきわめて扱いやすい国。

 今、「産廃計画」が出ている地域の住民は、そんなグローバルな背景まで考えておく必要がありますよ~。2020.1.26

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/