森に住む彼ら

 新しい年がやってきました。
 今日は、メルマガの文を編集してご紹介します。年明けにあたって。
 帰国するたびに山梨県の山小屋に行きます。遊びに行くわけではなく、草刈や森の手入れのために。これを怠ると、庭はたちまちジャングルと化し、通風が悪く、スズメバチや蚊の住処と化してしまうので。
 ある夏、ひさしぶりに行って見ると、温暖化のせいか、それまでひょろりとしていた自然木が異常に育ち、庭全体が木々でおおわれていました。何年も前に植えながら、全く育たなかった夏ツバキもぐっと伸び、花もたくさんつけたようで、花弁がいくつも落ちていました。日当たりひとつで、植生が激変するのには、毎回驚かされます。
 でも環境がどう変わろうと、元気のいいのが「笹」。翌朝、目が覚めるとすぐに長袖・長靴スタイルで笹狩りを始めました。小鳥と蝉の声を全身に浴びながら、庭じゅうびっしり生えた笹と数時間も格闘し、お腹がすいたので、小屋に戻りました。さ、コーヒーを飲もう!
 
 ふと、台所の窓から外をのぞくと、草蔭に誰かいる! 庭先は急な崖で、下には川が流れているから、人は近付けないはず。さすがにぎくりとしました。彼は、肌色の顔、濡れたような大きな瞳。・・・だれ? ポットを下に置き、あらためて目をやると、「鹿」でした。それも小さい。ほっそりした首筋と足元は明らかに小鹿。
 ママは? 
 いました。子供から5メートルほど後ろにそっとたたずんで、周囲に気を配っています。子供とそっくりの肌色の体、大きな瞳……もっとよく見ようと、そうっと別の窓に移動した時、母親は何かを警戒したらしく、くるりと顔を回して、子供と一緒に鮮やかなジャンプを決めて、森の中に姿を消しました。
 庭の一画には、夫が初めて作った畑があり、キャベツなどが一斉に芽を出していました。そのスプラウトの甘い香りが彼らを引き寄せたに違いありません。そういえば、夫は「誰かがオレの畑を荒らした」とぶつぶつ言っていたのですが、それまで菜園などに興味がなかった私たちは、その森に鹿が住んでいることなど、全く知らなかったのです。
 でも、日本では鹿は「害獣」。農作業に影響があれば、駆除の対象となります(ニホンカモシカ除く)。鹿にしてみれば、森を切り開き、あらゆるところに道路を通し、環境を農薬づけにする人間こそ最悪の「有害獣」でしょうけど。ヒトと動物が仲良く暮らすには、相手の生存権と生活圏を認め、適正な距離を置く必要があります。これは、ヒトとヒト、そして国と国との関係にも言えることですが。
 その夜、この地域は猛烈な雷雨に見舞われました。鹿の親子があれからどこで雨宿りしたのか、小鹿はもう大きくなったのか、なんてことを、今も時々思い出します。(記08年7月31日、投稿2010.1.2)

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/