カブール陥落、かいらい政権の崩壊

 数日前、アフガニスタンの首都、カブール陥落は早ければ一か月、遅くとも今年末、と報道されていました。ところがその記事を読んだまさに翌日、カブールは落城していたのです。アフガン軍は戦わずして逃げたため、タリバンによる劇的な無血開城となったようです。あわてた米軍や外交官らが特別機で必死に逃亡をはかるなか、空港ではこんな情景が。

米軍機にしがみつき…カブール空港で7人死亡 動画拡散

朝日新聞社 – 8 時間前

アフガニスタンの首都カブールの国際空港で2021年8月16日、滑走路を移動する米軍機と並走し、機体によじ登る人々。タリバーンに掌握された国からの脱出を求め、何千ものアフガニスタンの人々が空港に押し寄せ、機体にしがみついたまま離陸し、振り落とされて亡くなる人もいた=AP

 アフガニスタンの政権崩壊にともない米軍が特別機で大使館員らの国外退避を急ぐなか、ともに脱出したいと望む群衆数千人が15~16日、首都カブールの国際空港に押し寄せた。AP通信によると、機体にしがみついたまま離陸して振り落とされた2人を含む計7人が死亡。米軍は特別機の運航を一時休止するなど、混乱に拍車がかかっている。空港では16日、滑走路上に市民が殺到した。SNS上では離陸直前の米軍機の外壁にしがみつく様子を捉えた動画が拡散。離陸間もない機体から男性2人が振り落とされ、民家の屋上に落ちる様子を住民らが撮影した。16日に群衆が殺到したのは、前日夜に米軍機に乗り込み、国外脱出に成功した人々がいたからだ。カブール大学の学生エリアス・カユミさん(21)もその一人。カユミさんによると、首都を包囲した武装勢力タリバーンの戦闘員が市内に展開し始めた15日午後7時ごろ、空港を警備する政府軍が退散した。その隙に空港内になだれ込んだ数千人が、離陸直前の米軍機に駆け込んだという。

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 これは米軍にとって一番見たくないシーンだったはず。ベトナム戦争の時も、裸足のベトコン(今時この言葉を知っている人、いる?)に敗れた米軍は、協力者をおきざりにしてサイゴン空港から必死で逃亡したものです。侵略者は常に、侵略した国の人々の人権を踏みつけ、最後はこうやって捨て去るのです。あ…でも、旧日本軍は、日中戦争に敗れた時、協力者どころか自国民さえ置き去りにして、軍人軍属だけさっさと逃げてしまったのでしたね。

 

TOPSHOT - Afghan people climb atop a plane as they wait at the Kabul airport in Kabul on August 16, 2021, after a stunningly swift end to Afghanistan's 20-year war, as thousands of people mobbed the city's airport trying to flee the group's feared hardline brand of Islamist rule. (Photo by Wakil Kohsar / AFP) (Photo by WAKIL KOHSAR/AFP via Getty Images)

米軍機の上によじ登り、逃げ出す機会を待っているアフガニスタンの人々。

 タリバンはそれまでにもほとんどの州都を抑えていましたが、どこも戦闘らしい戦闘はなかったようで、地方の政権移譲もうまくいったようです。その理由は(米軍に支援されている)アフガニスタン軍の暴力と腐敗がひどく、国民はとっくにこの傀儡政権を見放していたから。そして、首都に迫るタリバンに怯えたガニ大統領は、15日までにタジキスタンに亡命したと伝えられています。

 

   日本では、タリバンは「武装勢力タリバン」と表現され、「テロ組織」認定されています。でも、テロ組織は人民の支援を受けることなどできません。また、今回の首都進攻の速さは西側諸国を驚かせていますが、これも地方と人々の支援があって初めて可能なはず。事実、アフガン国民はタリバン(少なくとも現在の)を支持し、戦闘においても食料や武器を提供してきたといわれています。ベトナム戦のべトコンが村人からひそかな支援を受けてきたように。

War in Afghanistan since 2001 has killed 100,000 people ...

 少なくとも100,000人がアフガン戦争で死亡。銃撃戦で殺された16人の村人の墓の前で祈る女性。パンジャブ、2012.3.24日 AP

 

 アメリカが、911と「テロとの戦い」を口実に始めたアフガニスタン侵略の目的は、もちろん他にありました。地勢的戦略ー中ソへの対抗、エネルギー問題、そして「アヘン確保」。アフガニスタンは世界最大のアヘン栽培国であり、アヘンはヘロインの材料として極めて商品価値が高い戦略物資だったのです。またアメリカは世界最大のドラッグ中毒者を抱える国…薬物中毒と医療の関係もあり、タリバン政権下でアヘン栽培が禁じられたことに危機感を持ったはずです。

 ある国が、圧倒的に力の差のある弱い国を侵攻するには、さまざまな計算があります。しかしアフガン戦争はアメリカの敗色が濃く、トランプ政権も米軍を引き上げを検討したのは周知のとおりですが、彼の時代にはそれは実現せず、今年4月になってようやく、バイデンが911以前に米軍をすべて引き上げると発表、撤収が始まったのです。タリバンの首都進攻は、その引き上げ作戦が完了する直前のことで、アメリカの面子丸つぶれ。

 首都制圧したタリバンは、すぐ市民の武装解除を行い、「かつての敵」前政権の下で働いていた人には恩赦を与えると宣言しています。また、女性の就職の機会と、そのための教育の機会を与えるそう…20年間の米軍支配の下で完全に失われていた女性の人権と、平和が、早くこの国に戻りますように。

2021/8/18

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/