ごみ処理施設建設「中止」のわけ(埼玉中部資源循環組合)①

 「ごみ問題」が紛糾している場合、メディアの報道では実態は伝わりません。たとえば、最近流れたこの↓ニュース。

 

吉見町 ごみ処理場問題 「建設は中止」町長明言

2019918https://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201909/CK2019091802000132.html

 吉見町に新しいごみ処理場と熱利用施設(付帯施設)の建設を計画していた県西部など九市町村の「埼玉中部資源循環組合」が解散の方向で協議している問題で、組合管理者を辞任する意向の宮崎善雄・吉見町長は十四、十六の両日、町民を対象に状況説明会を開いた。宮崎町長はこれまでの経緯と管理者を辞める理由などを説明。「ごみ処理施設の建設は中止にする」と明言した一方、「今の段階で対案はない」と述べた。(中里宏)

 十四日は東公民館に約六十人、十六日は町民会館「フレサよしみ」に約四百人の町民が参加した。

 宮崎町長の説明によると、組合の前身である八市町村の協議会が二〇一四年、ごみ処理場と温水プールなどの付帯施設を「一体的に取り組む」とする構想を策定した。付帯施設については、組合設立二年後の一七年まで協議されず、宮崎町長の初当選後の同年八月から今年五月まで、副市町村長会議で十回にわたり協議。組合の運営とし、運営費も構成市町村の人口割に近い分担を主張する吉見町に対し、同町の運営とし、運営費は利用者割りを主張する他市町村多数派との溝が埋まらなかったという。宮崎町長は「運営費の面で(ごみを受け入れる)吉見町が、他市町村以上の負担を強いられるのでは町民の同意を得られず、受け入れられない」と述べた。組合の今後については、県と相談しながら、組合が所有する財産の処分など、解散に必要な手続きを進めるとした。(以下略)

 

 …これを読むと、組合の解散に至った理由はもっぱら経済的な問題。つまり、経営主体と運営費負担をめぐって組合内部で意見が対立し分裂に至った・・・一見、もっともらしく見えますが、事実ははるかに錯綜しています。最大の問題は、「埼玉中部組合」が新施設の予定地として選んだのは、「二度とごみ処理施設を建てない」と約束した土地だったということです。メディアは今回、そのことについて触れていない。

 新ごみ処理施設 | 埼玉中部資源循環組合 https://chuubushigen.or.jp/new_shisetu 

 建設予定地:新ごみ処理施設の建設予定地は、吉見町大字大串字中山在地区、約5ha(5万m2)です
 

 この「大串地区」には、住民らの反対を無視して建設されたごみ処理施設がすでに稼働中です。住民はこれに猛反対して訴訟を起し、最後は裁判所の「和解」で、一代限りの稼働を認めていますが、今回の新施設計画は住民の願いを裏切るだけでなく、さらに泥水を浴びせようというもの。当然ながら、住民たちは新たな訴訟を起しています。

  埼玉・吉見の新ごみ処理施設建設 差し止め求め住民ら提訴 

吉見町や東松山市、滑川町など9市町村で構成する一部事務組合「埼玉中部資源循環組合」(管理者・宮崎善雄吉見町長)が吉見町大串地区にあるごみ焼却場の隣接地に計画している新しいごみ処理施設の建設差し止めを求め、吉見町の住民らが6日、さいたま地裁熊谷支部に提訴した。訴状などによると、現在のごみ焼却場を建設した鴻巣市と北本市、吉見町の一部事務組合「埼玉中部環境保全組合」と、建設に反対した住民側は昭和61年2月、「今後は大串地区などでごみ処理施設の新・増設をしない」ことを条件に、当時の浦和地裁熊谷支部で和解した。住民側は埼玉中部資源循環組合の構成自治体に鴻巣、北本両市が加わらず、名称も環境保全組合と異なるが、ともに吉見町長が管理者で、設立の経緯などから大串地区に新ごみ処理施設を建設することは和解条項に反する-などとして建設の差し止めを求めている。

 

 新施設計画がこの「和解条項」に反するのは当然です。なぜなら、行政組織は法的に「事務」の範囲が定められ、廃棄物処理はその事務の一つであること。そして組織の枠組みや名称がどう変わろうとも、事業者は「行政の継続性」を保って事業を行うことが法的に定められていること。そして、裁判所の「和解」とは、行政機関にとっては法令と同じく順守が求められており、同じ問題で二度と紛争状態を起さないよう義務付けられているからです(この裁判は民事訴訟ではなく、行政訴訟であることに注意)。

 ま~、田舎の地方自治体の長には、「コンプライアンス」なんて聞いたこともなく、金しか頭にない連中が多いでしょうけどね。そして、そんな首長や地元ボスの人となりや金脈を調べ上げ、狙いをつけて売り込んでくるのが、焼却炉メーカー、ゼネコン、産廃事業者です。それを受けて、今の行政は司法さえ無視するほどの無法組織に成り下がっているため、今回の中部広域の「和解破り」も決して特別なケースではありません。今、すでに公害施設がある地域、そして計画が出ている地域の住民は、そのことを知って、備えておく必要があるでしょう。2019.9.23 

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/