E-ごみinマレーシア

 どんなに避けていても、生活の中に入り込んでくるプラ製品。日本では使用済みプラは「容リ法」にもとづき、「燃やすごみ」とは別に収集されているので、「安全に再利用されている」と考えている人が多いでしょう。でも、それは大間違い。再利用されるのはごく一部にすぎず、圧倒的な部分は、法制度の整っていない途上国に運ばれ、現地の環境と人々の健康に大きな被害をもたらしているのです。

Above: Plastic waste outside an illegal recycling factory in Jenjarom in Kuala Langat, Malaysia, earlier this month. Left: An illegal plastic recycling factory in Pulau Indah. Many illegal plants use low-end technology and environmentally harmful met
(写真はロイター、縮小できないのでそのまま貼り付けときます。)

以下、マレーシアの新聞(FMT)記事を元に、同国が直面している「ごみを巡る現実」を紹介します。https://www.freemalaysiatoday.com/category/nation/2019/03/21/after-china-ban-e-waste-rains-on-malaysian-soil/

 マレーシアではたびたび環境汚染事件が起きており、今年3月にはジョホール州の河川に毒物が投棄される事件がありました。その結果、約4000人の被害(入院1000人以上)、多くの学校が数週間にわたって休校するなど大きな被害が出ています。この毒物も海外から持ち込まれたものらしく、シンガポールのタイヤ処理工場の取締役ら数名が逮捕され、国際問題化しています。

Singaporean man charged in toxic waste dumping case in Johor; another Singaporean suspect missing,

 でも、この事件以上に人々の不安を駆り立てているのが、先進国のごみ流入の急激な増加です。マレーシア・トゥデイ紙は、過去数か月、コンピューターやテレビ、ステレオ、ビデオ、コピー機、ファックス、その他の電子機器を満載した何千ものコンテナが続々とマレーシア各港に押し寄せていると報道しました。これらはも古くて使い物にならない先進国の電子製品ごみ(E-ごみ)ばかりで、いずれ「マレーシアの時限爆弾」になると見られています。

 先進国ではE-ごみ産業は花盛り。アメリカ一国だけでも、そのビジネス規模は50億ドルにのぼると、1300社以上の使用済み電子機器の企業を抱えるスクラップリサイクリング産業研究所は発表しています。しかし、再使用、再販売、リサイクルなどへ回されるE-ごみは、日本同様ごく一部。つい先ごろまで、その大半は中国に運ばれていました。

 しかし北京は2017年、有害物質輸入の全面禁止という、思い切った「国門利剣」政策を打ち出し、これが先進国のE-ごみの流れを変えます。FMTの調べによれば、今回ジョホール州やセランゴール州の港に陸揚げされたのはアメリカやEUから違法輸入されたE-ごみ。そし、「輸入者」はほとんどの場合シンジケート(犯罪組織)で、コンテナの中身を「金属スクラップ」などと偽って通関させ、そのE-ごみを、多くのルートを通じて全国の違法処理工場へ運んでいるとのこと。

 「毎週毎週、千台以上の20footコンテナ、40footコンテナがこの港に入ってきていたのに、記録も残っていないんだ」

 関係者はこう述べ、税関担当者と犯罪組織の癒着を疑いを口にしました。 このシンジケートは、タイ、ベトナム、ラオス、インド、インドネシアでもロビー活動していたことがわかっていますが、これらの国々は海外のE-ごみに早々と門戸を閉ざしたため、行き場を失ったE-ごみは、対応が遅れたマレーシアに集中したのです「汚染」が、常に、弱く判断力がない地域を襲うのは、日本国内も、国際的にも同じ。

 有害な廃棄物が「越境移動」するのは、先進国では厳しい環境法令があったり、市民の批判があったりで、処理コストが非常に高くつくから。ごみ処理業界は、自国の企業から高額な処理費用を得、実際の作業をコストの安い途上国に押し付けることで、莫大な利益を得ています。このような事態を避けるために締結された「バーゼル条約 外務省」は、有害物の国境移動を禁じるどころか、業界に穴を開けられまくって、今や公然と「有害物の資源輸出」を後押しする仕組みに変わってしまったのは、皮肉としか言えません。そして、その果てに、今の地球的規模のプラごみ汚染があるのです。人間の欲は結局、社会も自然もほろぼすのですね。

さて、FMTの調べでは、さらに恐ろしいことがわかりました。多くの「処理工場」が、非常に汚染された、実質的なE-ごみ処分場と化していること、さらに、これらの処理工場は人々の居住地のすぐそばに設けられていて、作業員も住民も日常的に有毒な煙にさらされていることです。なぜならE-ごみに含まれている金属類を取り出すには、そのケースであるプラスチックをかなりの高温で焼かなければならず、そこから猛烈な有毒ガスが出るからです。さらに、電子機器に多く使われている鉛、セミコンダクターに使われているカドミウム、回路に使用されている水銀、防錆剤として使われている六価クロムなどは、深刻な健康被害をもたらすとして知られているものばかり(「予防原則」を取り入れたEUでは、製品に有害重金属を使用しないことになっていますが、昔はなんでも使えたしね~)。

しかも、E-ごみの違法処理業者は、人目につかない所に高い塀をめぐらした工場をたて、第三者が近寄れないようにしている。また、地元民を雇用せず、働いているのは中国やベトナム、バングラデシュ、ミャンマーからの出稼ぎ労働者。彼らは安全教育どころか、安全靴やゴグル、マスクもないまま、最悪の状況下で働いているようです。この部分を読んで、私は大戦中の日本軍による中国人の強制徴用と、そのすさまじい労働環境について書いた中国人の手記を思い出しました(「韓国の徴用工」も、もちろん事実です)。

いずれにしてもマレーシアのE-ごみ稼働実態はまったく闇の中。取り締まりどころか、監督さえできない実態と、おそらくすでに出ているであろう健康被害を考えると、とても気が咎めます。それをもたらしているのが先進国の無責任な製造体制であり、私たち使用者なのだから。2019.5.25

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/