「廃プラもっと燃やせ」―メディアの信用失墜

  

朝日新聞の7月24日朝刊が、田中勝氏の「プラスチックごみはもっと燃やせ」を大々的にPRし、批判が集まっています。Q&Aの形式で、焼却派として有名な田中氏(中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会長)の論を、批判も加えず並べ立てたもので、私の読者からも「ひどすぎる」との感想が。そこで読者がまとめてくれた疑問(数字)に答える形で私の分析を載せておきます。
 一、田中氏の主張に対して
 1.田中氏「ごみ焼却による二酸化炭素の排出量は2008年度で国内全体の2%しかない」


そもそも環境省は、「有機物焼却はCO2排出はゼロであり、現在のごみ焼却は温暖化へ寄与しない」との前提で焼却主義を進め、温暖化への寄与はゼロとしてきました。ついでに、燃すための燃料はCO2排出原因になるため、「ガス化熔融炉なら、外部燃料は要らない」なんてPRを続けてきたのものです。だから、こういう数字(2%)をあげてきたのは驚きですが、それを言うなら、その根拠(データ、計測、計算式など)を出さないとね。普通、科学者ならそうするし、記者も確認するものだけど、この記事にはそういうことはカット。怪しい。



 2.99年に成立したダイオキシン類対策特別措置法では、世界で最も厳しい排出基準が適用されている。


ばかばかしい。いくら排出基準を厳しくしても、焼却炉はダイオキシンの最大の排出源であるという事実は代わりません。それに濃度超過事件はあちこちで起きています。
 3.今、焼却施設のダイオキシンの排出濃度は、新しい炉に適用された排出基準(1立方メートルあたり0.1ナノグラム=ナノは10億分の1)をはるかに下回るレベルだ。
 これも単なる数字の説明で、実際に排出量が少なくなった、ということを意味しているわけではありません。逆に、広域化計画=焼却量の増加に伴ってダイオキシン発生量は増えているはず。それに、ダイオキシンは消えてなくなるわけではなく、焼却灰に移行するだけの話です。


4.(プラスチックの)リサイクルと焼却発電、それぞれがどれだけのエネルギーの節約になっているか、岡山県の自治体のデータを基に比較したところ、焼却発電が約2割上回っていた。一方、プラスチック処理促進協会によると、二酸化炭素や窒素酸化物の排出など環境に与える負荷では、リサイクルが約2割優れていた。


何を言ってるんだか。立場によって言うことが違うということを言っているだけです。焼却事業者はごみ発電が優れているといい、リサイクル業者は、リサイクルの方が優れている、と主張するのは当然。


 5.(プラスチック容器包装のうち)汚れた容器包装までリサイクルするのは考えものだ。選別の過程で半分がごみになる。リサイクルに回る60万トンの処理に事業者は毎年400億円近く負担し、自治体も収集と選別・保管に数百億円の税金を使っている。それに比べて焼却発電なら可燃ごみと一緒に運ぶから効率がいい。


ここには、廃プラ・リサイクルに回る400億円の負担をゼロにしろ、という産業界の要求が見てとれます。ついでに、こういう主張をする人々は、決して焼却による環境悪化や人体被害については認めず、「ダイオキシンで死んだ者は一人もいない」などとうそぶくのです。

 6.
(欧米では)プラスチックごみを燃やさない国はない。欧米の関心は再生可能エネルギーに向かっている。EU20年までに再生可能エネルギーを総消費エネルギーのうち20%、米国は25%に引き上げようとしている。


欧米諸国の多くは今なお埋め立てて処理が基本で、焼却したくても、反焼却の運動が強くて焼却炉が建設できないという事情があります。ここでいう「欧米の関心」とは、「産業界」の関心であり、彼らは日本のようにすべて焼却できる体制を取り入れたいのです。それにしても、出典を示さない人ですね。


 


 7.新しく焼却施設を造る時にはできる限り集約し、(現状のような小規模な施設ではなく)超広域的な廃棄物処理を基本とし、施設を大きくし、家庭ごみと一緒にプラスチックごみを集めればいい。そしてごみ発電を再生可能エネルギーの有力な担い手と位置づけ、太陽光発電と同様に電力業界が高価格で買い取る仕組みにすべき。


「超広域的」という言葉にご注意。今、産業界は県境を越えた広域化計画に着手しており、その最初の例が関西で始動し始めています(「関西広域連合」)。関東にも八都県市による計画があるので要注意。もちろん、ごみ発電は、再生可能エネルギーと位置づけられるべきではないし、欧米の市民は、ごみ発電を「ダーティ・エナジー」として嫌っています。 




 ニ、
取材記者(杉本裕明)のコメントに対して
 8.
同じプラみなのに、埋めたり、燃やしたり、リサイクルしたりと自治体の判断がまちまちで、国も判断基準を示さないことから市民の誤解や混乱を招いている。


当たり前です。ごみの処理は各自治体の「自治事務」であり、住民の意思を反映すべき義務があります。国はそこに口出しできないため、産業界は、田中氏らを使って推進したのが、大型化、広域化、高温化を目指す「ごみ処理広域化計画」。でも、「燃したくない、リサイクルに力を入れたい」という地方の抵抗はけっこう強かったわけ。この記者はあまりにも不勉強、というか、意図的にいろいろな実態を無視しています。



 9.
効率とコストにこだわった田中さんの指摘は、一貫性のない環境省の姿勢より、よほど明快に感じられた。


「効率とコスト」だけを判断基準にすれば、論点が明快になるのは当然。環境問題の記者がこういう無責任な記事を書くとは、ひどすぎますが、これはおそらく朝日新聞が産業界の要望にこたえ、「もっと燃せ」というプロパガンダを展開しているということになります。なお、環境省が「一貫性がない」とは、同省でさえ、市民のプレッシャーと非焼却処理との間で揺れ動いている―まともな官僚もいる―ことを意味しています。



 10.
以上、山本さんのご著書の内容とはかなり異なる記事構成となっていると考えられます。朝日新聞のような日刊紙が読者に与える影響は大きいと考えられることから、誤った内容であれば早急に指摘する必要があると思います。
 
 この記事が、このタイミングで出たのは、いくつか理由があります。
 1.まず、ガス化溶融炉の危険性(事故や火災続発)が広く知れ渡り、反対運動がますます激しく、自治体でさえ、その建設を回避しようとしていること
に対する底入れ策(これから作るというおバカな市もありますが)

 2、この七月、アメリカ環境省(USEPA)が、ようやくダイオキシンに関する健康への影響評価書を発表したこと。解説を読むと、ダイオキシンの人体への影響が当初考えられていたより数倍ひどいことが明らかになったとのことで、欧米の焼却炉反対運動はさらに激化しそうですが、日本の産業界はこういう御用学者を使って、この衝撃を未然に止めようということでしょう。
もしダイオキシンが消えてなくなるなら、ダイオキシン特措法も、ストックホルム条約も必要ないし、どの国も盛大にごみを燃していることでしょう。なお、新聞はその他の「有毒物質」に一切触れていないのも意図的です。

 3.大阪府寝屋川市の廃プラ処理による健康被害の判決(来年2月)に、間接的な影響を及ぼそうとしているのではないか。つまり、こういう記事を出して、無知な裁判官に、「廃プラはリサイクではなく、熱利用の方がいい」とのメッセージを刷り込もうとしているのではないでしょうか(この推測は現地で確認でき、かえって驚きました)。

 
4.いまどきマスメディアを信用するのはNG。周りの人にもそういって注意を促しましょう。いずれにしても、環境政策は、政治と経済の面から考えないと、メディアが垂れ流すウソにだまされるばかりです。2010.8.7

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/