「宇都宮つぶし」分析

 昨日の続き。私は基本的に「選挙」には関わりませんが、今回の都知事選に向けた市民運動の「分裂」の方は守備範囲なので、もう少しフォローしときます。

 細川「参戦」を最初に報道したのはスポーツ紙のようです。

細川氏、小泉氏と会談後出馬を正式表明 
 
2014年1月10日9時31分 日刊スポーツ
http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp3-20140110-1241969.html
東京都知事選で、民主党の出馬打診を断った細川護熙元首相(75)が、無所属で立候補する意向を固めたことが9日、分かった。今も強い影響力を持ち、同じ脱原発を訴える小泉純一郎元首相(71)との連携が最大の鍵とみて、週明けに小泉氏と会談した上で、正式に表明する見通し。「細川・小泉劇場」が現実味を帯び始めたことで、舛添要一元厚労相(65)への与野党相乗りとみられた「無風」の構図は、一変する。(中略)別の関係者によると、都庁がある新宿区に、選挙事務所用の物件を確保したという。準備は、着々と進んでいる。細川氏は今月、民主党の日本新党出身議員による出馬打診を断ったが、猪瀬直樹前知事の辞職前後から出馬の検討を始めた。1998年(平10)5月の政界引退から約16年。清新さを出すには、政党色を出さず、幅広い支持を得る環境が必要と考えているようだ。「殿」の最終決断への最大の鍵が、小泉氏。細川氏の「脱原発」より踏み込んだ「即原発ゼロ」を主張、昨秋には会談もした。新党結成などの共闘には否定的で、「それぞれの立場でやった方がいい」と主張してきたが、独特の政治勘からか、今回は「勝負どころ」と読んだようだ…

 引退したといいながら、細川の周辺には「側近」やら「ブレーン」がうようよ。これは、今なお、「殿」には利用価値と、それなりの「背景」があるせいでしょう。すでに民主党もアプローチしていた。一般紙の報道は14日から。小泉と仲良くツーショット。 
   

細川氏、都知事選立候補を表明 小泉氏が支援約束
2014/01/14 · 東京都知事選(23日告示、2月9日投開票)をめぐり、元首相の細川護熙氏(76)が14日、都内のホテルで、小泉純一郎元首相(72)と会談した。細川氏は会談後、立候補を表明。小泉氏も細川氏も細川氏の掲げる「脱原発」を評価し、支援を約束した。細川氏は15日に記者会見し、正式に立候補を表明する・・・。

 それにしても、小田原で、まったり陶芸などにいそしんでいた「元殿」が、突然、「脱原発」のホープとして躍り出てきたのは、小泉を通じた「ジャパン・ハンドラー」が動いたからでしょう。その立候補の「内情」については、NEWSポストセブンの分析が面白い。http://news.biglobe.ne.jp/entertainment/0114/sgk_140114_4043766886.html

 …ところが、そんな細川氏を激怒させたのが、新聞各紙が報じた「民主党が細川氏に出馬を打診」(1月7日)という記事だった。細川側近の1人が語る。「“殿”は出馬する場合はあくまで小泉さんと一緒に原発ゼロを訴える考えで、原発政策が曖昧で有権者に信用されていない民主党と組む気は全くない。しかし、あんな記事が出れば民主党系の候補と見られて小泉氏も応援しにくくなる。だから民主党の要請を固辞したのに、出馬打診をわざわざリークした民主党のやり方に非常に怒っている」 その後、自民、公明が舛添要一氏相乗りに動くという、細川氏にとって「脱原発」をアピールしやすい状況が生まれていった。

 激怒もなにも。民主党からアプローチあったことは事実なのに、それをリーク記事として騒ぎに発展させたのは、細川に注目を集める作戦。つまり、細川陣営側はメディアコントロールの能力もあるわけで、今後も、メディアリテラシーが低い人々をターゲットにするのでしょうね。なお、彼の出馬に、いわゆる「再エネ」業界(原発利権を補完する体制)もおおはしゃぎしていました。選挙は経済でもあるのだ。

 「日本風力開発 <2766> (東マ)は5.8%高となり、バイオマス発電のファーストエスコ <9514> (東マ)は後場上値を追う相場となり11.0%高。細川護熙元首相が東京都知事選に出馬する方針を固めたと伝わり、脱・原発の期待」
http://www.zaikei.co.jp/article/20140114/172505.html

 前記事でも書いたように、細川の目的は反原発の票を割ること、つまり「宇都宮つぶし」。 猪瀬が圧勝した2012年12月の都知事選で、ほとんど地名度がない中で、96万票を集めて二位につけたのが宇都宮氏。猪瀬の430万票というありえない得票数や、反原発の民意をほとんど反映していない結果に、「不正」が疑われた選挙でしたが、その後の猪瀬の裏切りとぶざまな辞任劇に目覚めた都民が、宇都宮に投票する可能性は大きかったのです。ところが細川の立候補に、一致団結して戦うべき宇都宮陣営は、見事に分裂した・・・

(変転 2014都知事選)脱原発一本化に賛否 宇都宮氏陣営内に望む声
朝日新聞デジタル 1月16日(木)5時30分配信 (有料記事)   
 ・・・細川護熙元首相の立候補表明をうけ、脱原発の主張が重なる日本弁護士連合会前会長の宇都宮健児氏の陣営が揺れている。立候補取りやめを求める声が寄せられ、陣営内からも一本化を求める声が出ているためだ。15日、宇都宮氏を支える市民団体の幹部ら20人が急きょ都内で集まった。「脱原発票が割れ、共倒れしたら意味がない」「小泉純一郎元首相と細川氏が組んだなら、勝てる」。細川氏の佐川急便からの借入金問題を指摘する声もあったが、両陣営に一本化を求めることを決めた。会議を呼びかけた河合弘之弁護士は、「もう敗北はできない」……

 こうして、「勝てる候補者を選ぶ」として、細川支持に回った人たち(「脱原発都知事を実現する会」)は、以下の文書を発表して、宇都宮氏をソデにしたのですな。
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  都知事選における脱原発候補統一について 
 私たちは長い間脱原発運動に携わり、脱原発を心から願う者として1月15日に文書で宇都宮健児氏及び細川護煕氏に脱原発候補の統一のための話し合いを呼びかけました。


 しかしながら、宇都宮氏からは公開の場での討論に力点を置いた回答があり、細川氏側からは、いかなる政党、団体からも支援を受けない、ただし、それぞれの立場で同氏の脱原発の志を理解し応援してもらえれば幸いだという回答がありました。


 以上の通りなので、宇都宮氏、細川氏の一本化は、ほぼ不可能になりました。大変残念なことです。そこで私たちは改めて三氏のこれまでのご意見を慎重に方針を検討した結果、次のように考え広く市民に訴えます。


結論:
 原発再稼働に反対し、そのまま原発ゼロを最優先政策として掲げる細川氏を支持します。

理由:

1.細川氏の脱原発政策の詳細はいまだ明かではないが、「再稼働反対」、「原発ゼロ」、「脱原発を最優先する」とは陣営が明らかにしているところです。

2.宇都宮氏は、脱原発を政策としているが、他の政策と並列させており、優先度が低いと考えます。


3.舛添氏の脱原発論は、記者会見で「今すぐ脱原発はできない」と言っている通り、言い換えれば「再稼働する」ということです。


4.細川氏の原発以外の政策については、平和主義を中心に私たちの力を尽くしたいと考えます。

鎌田慧(ルポライター)、河合弘之(弁護士、脱原発弁護団全国連絡会)、瀬戸内寂聴(作家)
、広瀬隆(作家)、湯川れい子(音楽評論家)、宮台真司(社会学者)、柳田眞(たんぽぽ社)、村上達也(前茨城県東海村長)、三上元(静岡県湖西市長)、吉岡達也(ピースボート)、野平晋作(ピースボート)、村田光平(元在駐スイス大使)、淵上太郎(経産省前テント広場)、下山保(パルシステム生協連元理事長 経産省前テントひろば)、布施哲也(前清瀬市議会議員)、冨田杏二(練馬市民運動)、高見圭司(スペース21)、木村結(東電株主代表訴訟)、堀江鉄雄(東電株主代表訴訟)、杉本茂樹(事務所Yori-Id代表)、渡辺マリ(たんぽぽ舎)、橘民義(社団法人自然エネルギー研究会)、青山貞一(東京都市大学名誉教授環境政策学)、鮎川ゆり子、高木久仁子、島昭宏(原発メーカー訴訟弁護団)矢口敦子(作家)、荒井潤(作家・シンガーソングライター)、森詠(作家)、川村湊(文芸評論家)、高野孟(評論家)

 かなりひどい文書です。以下、ポイントをまとめました。( )は山本の感想
 ①細川がどうやって脱原発を実行してゆくのかも、原発以外の政策も、不明。 (→政策を熟読した上で選挙協定を結ぶという、最低のこともやっていない)
 ②細川は脱原発を最優先している。宇都宮は最優先ではない。
  (→バカバカしい。騙す、忘れる、嘘をつくという政治屋の天性。細川のブラック背景を無視して、無邪気を装っているとしたら許せない)
 ③宇都宮は公開討論を求めたが、細川はこれを断った。 (→「脱原発」一夜漬けの細川に、討論できる能力があるはずないじゃない)
 ④細川は「いかなる政党・団体からも支援を受けない」が、勝手連は歓迎。 (→これは宇都宮支援を表明している共産党への牽制。共産党の支持を得た候補者を落とすためのいつもの手。ネットでも宇都宮=共産党への攻撃が始まっている)

  細川は「組織票」には頼らないと言っているのだから④、よほどの浮動票が望めない限り、これは「負け覚悟」と取れるんですけどね・・・。共産党は常に選挙でかく乱役を果たしてきているし、嫌悪感をもつ人も多く(私も、です)なかなか浮動票が取り込めない。従って、一本化が失敗しても、細川が立つだけで、相当数の「反原発票」が彼に流れ、結果として自民党・舛添の当選につながる可能性が高くなる、というのが私の見方。細川を担ぐ「市民派」とはいったい何?と言いたいわけです。2014.1.22

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/