輪島の「大釜産廃処分場」で想定されること

 小さいけれど見過ごせないニュースが入っています。能登半島西側にある、小さな限界集落に産廃処分場を作るという話です・・・

 

処分場計画 輪島市が住民説明会を開始(石川県)

[ 7/23 18:22 テレビ金沢]http://www.news24.jp/nnn/news87114138.html

輪島市で計画されている産業廃棄物の最終処分場について、市は地区ごとの説明会を開始した。処分場の計画は、10年前に輪島市門前町 の大釜地区で持ち上がったもので、ことし6月に市議会が初めて計画を事実上容認する判断を示した。門前地区で行われた23日の説明会で梶文秋市長は、処分場の排水を川に流す計画が市の下水施設で処理する方法に見直されたことなどを説明し「議会も市も一歩前に踏み出す判断をした」と理解を求めた。一方、住民からは「現在の下水処理施設の能力で産廃の汚水に対応できるのか」といった質問が出された。市では9月中までに市内18の地区全てで説明会を終える予定。■ 動画をみる

 

 記事には書いてありませんが、これは50年間にわたって北陸三県(石川県、富山県、福井県)の産廃70,000トン(予定年間受入量)を受入れるという大規模な計画です。しかも日本最大の原発銀座から遠くない。環境省の「特定放射性廃棄物」に関するゆる~い規制を考えると、現地は事実上、西日本最大の放射性廃棄物の処分場になってしまいかねません。

 さらに奇妙なことに、業者ではなく輪島市が説明会を行い、これまで二度反対決議を出した市議会も賛成に回り、処分場排水の下水道接続も認めている・・・これは、実弾を伴う説得工作が成功したことを意味しており、おそらく、将来的には一般廃棄物処分場として使う約束でもできているのでしょう。この計画の事業者はー記事は名前を出してないー業界四位、東京に本社を置く「タケエイ」。2006年8月にはこの事業のために㈱「門前クリーンパーク( タケエイ55.6%、大成建設44.4% )」を設立し、地元説得と輪島市篭絡にあたってきていました。

 

 でも、いくら「クリーン」と名づけたって、廃棄物処分場は、単なる公害事業でなく、後代に及ぶ最悪の汚染事業です。水も空も汚される。だから、そのうち能登半島西側の海産物はすべてあきらめなければならないかも・・・風評被害? とんでもない。EUだって、廃棄物の埋立処分は「もっとも好ましくない処理法」として、「河川、地下水、土壌、大気、ヒトの健康が脅かされ」ないように、厳しい規制をかけているのです(http://ec.europa.eu/environment/waste/landfill/)。これが有名な「処分場指令Directive 1999/31/EC」で、処分場の環境汚染と健康被害は広範囲に及ぶことを認め、後発の規制であるにもかかわらず、そこに適合しない処分場に閉鎖を命じているほどです。・・・「豊かな生活」のつけを平然と「汚染と健康被害(焼却炉、処分場)」にまわしている日本では、こういう常識さえない。

 

 実はこの計画、十年ほども前に地元集落の住民が「誘致」したことが発端でした。住民といっても4世帯8人。当時、全員65歳以上の彼らは、将来的にこの地域では暮らしてゆけないと判断し、全員の移転を条件に、いわば村を売りに出したのです。でもゴルフ場もリゾートもだめで、飛びついたのが産廃事業者でした。ネットには、「輪島初め奥能登の魚介類は大きな被害を受け、観光も打撃を受けるでしょう。そんな施設を、過疎で年寄りしかいなくなった、子や孫は能登には帰って来ないからと、後は野となれ山となれと売っぱらってしまうとは、あまりにも自分勝手・・・」なん声もありますが、私は住民を批判する気にはなりません。忘れ去られ、置き去りにされた老人ばかりの集落で生きる不安・・・それは他者にはわからないから。逆に、彼らは無知で、生存に必死だったことはわかるから。

 人口の都市集中、超高齢化社会、限界集落、耕作放棄地・森林荒廃の発生、集落消滅・・・これらはずいぶん前から予測されていましたが、国も地元自治体も小手先の対応しかせず、右肩上がりの経済幻想にしがみついた結果、過疎地帯の住民が公害施設呼び込むところまで来てしまった。これに対して、高齢者支援の条例でも作って問題を解決することもでできたでしょうが、当時の門前町( 鳳珠郡、旧鳳至郡)は(おそらく)その能力がなく、一方、2006年2月に門前町を合併した輪島市は、逆に事業の推進側に回ったようです。

 この計画には日本政策投資銀行もからんでおり(関与の実態は不明)、国策の色合いーこれを成功させて、全国の限界集落を廃棄物処分場として利用するーも強い。それに、輪島市の梶市長といえば、「がれき」騒動の時に住民の法的権利を無視するという蛮勇をふるった人物、最悪のことを考えておくべきですね。なお、この件については、本ブログの過去記事でどうぞ;

梶輪島市長、森富山市長の無知と愚鈍 | WONDERFUL WORLD 2012/12/02

日本全国、カネや票、権力に目がくらんだ首長がいるところほど、「がれき」問題が後をたちません …

がれき阻止した地域と、できなかった地域、その違いは? | WONDERFUL … 2012/12/24

富山市は処分場にがれき焼却灰を強行搬入・・・処分場前で猛抗議

輪島市が今日、がれきを違法搬入! | WONDERFUL WORLD 2012/12/25 –

27日には試験焼却を行うと思われます。美谷町など地元は阻止行動をおこなう予定・・・

輪島市、がれきを違法搬入、「抵抗せな」 | WONDERFUL WORLD 2012/12/26

 試験焼却のニュースの続きです。結論を先に言うと、反対区長らは市に押し切られてがれき違法搬入を許して・・・

 

 幸いにも、環境省は2013年、「がれき処理の目処はたった」と方針を変更したことから、輪島のがれき問題は「試験焼却」だけで終わりました。しかし、そのウラで進められていたこの処分場計画については、市民の多くはノータッチ。がれき問題が、こうして、「本命」計画のめくらましとして使われたケースは珍しくありませんが、みなさんの地域ではどうだったでしょうか?2016.7.23

 

(参考記事の一部)

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
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