大気汚染による死者は数百万人規模

 18日にアップしたがんの主要な原因は大気汚染、WHO再確認 についての続きです。転載した記事には「2010年のデータによれば、大気汚染による肺がんの死者が22万3000人」とあったけど、そこには大気汚染の影響を小さく見せようとする意図が隠されているような気がします。
 というのは、今年7月、大気汚染の影響の大きさを改めてものがたる重大なニュースが流れているからです。「大気汚染によって毎年、世界で200万人以上が死亡」。しかもこの記事↓には、問題はPM2.5だとまではっきり書いてある。http://www.ibtimes.com/air-pollution-kills-over-two-million-people-worldwide-each-year-1344711 (By   on July 13 2013) 日本語の記事を読んだ記憶がなかったので、改めて調べると、中国メディアがこの研究を紹介していました。以下は人民日報系の日本語版。

海外研究:大気汚染により、世界で毎年200万人以上が死亡


「人民網日本語版」2013年7月16日 
http://j.people.com.cn/95952/8328674.html
 米国、英国、フランス、日本、オーストラリアなど各国の研究者が7月12日に発表した報告書によると、人類の活動によってもたらされた大気汚染により、世界で毎年200万人以上が死亡していることが分かった。その主な原因は大気中のPM2.5など浮遊粒子状物質濃度の上昇で、これが人の肺に害をもたらし、肺がんやその他の呼吸器疾患の原因となっている。新華社が伝えた。同報告書によると、1850年から2000年にかけての大気中のオゾンおよび浮遊粒子状物質の濃度について様々なシミュレーション研究を行ったところ、人類活動が原因の浮遊粒子状物質濃度の上昇により、世界で毎年約210万人が死亡していることがわかった。また、人類活動が原因のオゾン濃度の上昇による死亡者は毎年約47万人に達した。
 同報告書の第一著者である米ノースカロライナ大学のジェイソン・ウェスト氏は「大気汚染が人類の健康にとって最も重要な環境リスク因子の1つであることが今回の研究で明らかになった。大気汚染に伴う死亡者が特に多いのは、東アジア、南アジアと見られる。これらの国は人口が多く、大気汚染が深刻だ」と指摘した。気候変動も大気汚染をもたらしているが、気候変動が原因となった死亡者数は人類活動が原因となった死亡者数と比べると少ない。報告書によると、気候変動に伴うオゾン汚染による死亡者は毎年1500人、気候変動に伴うPM2.5汚染による死亡者は毎年2200人に達するという。

 注意すべきは、この死者数は推計であって、実数ではないことです。研究者は、過去の記録・データ・論文を分析し、そこにさまざまなシミュレーションを当てはめて死者数を導き出していますが、オゾンについては14、PM2.5については6のシミュレーションレベルを用いたとのこと。大気汚染モデルが違えば結果もかなり違ってくるので、ひとつのモデルだけに頼る分析は気をつけなければいけない、というのが、研究者らの「警告」です。(原文を見ると日本の学者も二人参加していますが、国内で発信しているのかどうか不明。)

 また、上の英文記事には「全米科学アカデミーの最近の研究 Recent research によると、中国の大気汚染は北部が深刻で、平均寿命は南部のそれより5.5歳短い」とありますが、日本で流れたのは、この部分だけじゃないかな。

中国北部「平均寿命短い」 大気汚染影響と研究チーム
2013/07/10 http://www.47news.jp/CN/201307/CN2013071001001921.html
 【北京共同】中国北部では大気汚染が南部より深刻で、住民の平均寿命が南部より5・5年短いとする調査報告書を、米中などの研究チームが発表した。石炭を使った暖房設備を北部に重点的に配備する政策が影響したとしているが、中国環境保護省は信ぴょう性を疑問視している。10日付の中国各紙が伝えた。研究チームは1981~2000年の中国90都市の大気データと、1991~2000年の145都市の死亡統計を詳細に分析した。その結果、東西を流れる淮河より北の地域では、空気中の汚染物質の濃度が南よりも55%高かった。汚染物質の濃度が高いほど平均寿命が縮む計算結果も出たという。

 この論文(有料)は見ていませんが、同じ時期にOECDもEnvironmental Outlook Baselineを出して、中国での環境政策の必要性を力説しているから、中国を世界の環境汚染源とするシナリオを感じざるを得ません。私が焼却炉による大気汚染を訴えていた十年ほど前までは、室内空気汚染の方が深刻とされていた(それも化学物質ではなく、主に途上国の薪炭使用による室内汚染のこと)のも、やはり「タイミング」の問題だったか。日本で伝えられないニュースにこそ、事実が隠されています。2013.10.21

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/