私も原告になっていた原発メーカー訴訟の一審判決が、7月13日、東京地裁で言い渡されました。
原発メーカーを相手取った訴訟、被災者ら敗訴 福島事故
2016年7月13日(水)19時45分 http://www.asahi.com/articles/ASJ7F4SQRJ7FUTIL01J.html
東京電力福島第一原発の事故で、被災者を含む国内外の約3800人が「事故の責任は原子炉を製造したメーカーにもある」として、米ゼネラル・エレクトリックの日本法人と日立、東芝の3社を相手に計約4千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が13日、東京地裁であった。朝倉佳秀裁判長は「原子力損害賠償法の規定で、メーカーは賠償責任を負わない」として原告側の請求を退けた。同法は、原発事故などの被害に対する賠償責任は電力会社などの「原子力事業者」が負うと定めている。原告側は「メーカーに事故の責任を負わせない法律は憲法違反だ」と主張したが、判決は「被害回復のために同法が合理的でないとは言えない」と判断した。原告代理人の島昭宏弁護士は「予想以上にひどい判決。メーカーが巨大な利益を約束された上で責任は免れる制度は明らかにおかしい」と話し、控訴する方針を明らかにした。
原告の大多数は他県の一般市民、原告数も海外の方が多いのに、「被災者ら敗訴」という見出しは被災者の訴訟のようで気になります。多分、「一般市民も提訴できる」ことを知られたくないんじゃないかな。
・・・判決文はまだよく読んでいませんが、日本には、原発がどんな事故を起こしても(たとえ設計ミスによる事故でも)メーカー責任は問わないという原発マフィアを優先する法制度がありますが、裁判所はそれを「問題なし」と認めたというだけのものです。ですが、訴状の内容からしても、こうなること(敗訴)は予想していたので、判決の中身には踏み込みません。でも一段落ついたところなので、この訴訟を簡単にふりかえってみます。
・・・私はこれまでいくつかの訴訟にかかわってきましたが、この訴訟ほど弁護団のおかげで引っ掻き回されたものはありません。
弁護団のサイトにはこう書かれています:
訴訟の現状について http://nonukesrights.holy.jp/index.html
2016年3月23日の第4回口頭弁論において、突然朝倉佳秀裁判長から「弁論の終結」の言い渡しがあり、弁護団は裁判の公平が侵害される恐れがあると裁判官全員の忌避を申し立てました。忌避申立てが出されたため、弁護団において5月2日に東京高裁に即時抗告の申立てをしました。同抗告は、平成28年6月13日東京高裁第11民亊部において棄却されました。弁護団は最高裁に対し、特別上告を行っています。判決の日取りは、7月13日午後4時に予定されています。どちらが勝(敗)訴するにせよ、判決後は高裁に控訴することになります。高裁に控訴するためには、原告委任状を提出する必要があります。ここをクリックすれば、委任状をダウンロードできます。まだ委任状を提出していない原告の方は、署名捺印の上、弁護団に郵送してください。
4回目の法廷で、「裁判長が、突然、弁論終結を言い渡した」とありますが、これは事実に反します。原告側弁護団は、法廷開始前に行われる「進行協議」において、相手方弁護団と裁判長との間で、この訴訟を「四回くらいで」終わらせるべく合意していました。この「進行協議」、普通は原告が主役で、弁論をどうするか証人を何人呼ぶかなどを相手側弁護士とともに話し合って決める場ですが、なんと原メ訴訟の弁護団は原告の同席を許さなかったのです。しかも「裁判所がそれを望んでいる」と偽って(協議への参加は原告の権利だから、裁判所は原告の参加を拒めない)。幸い、原告の一人が「阻止」をものともせずこの協議に参加してくれたおかげで、そこで話されたことをメモし、MLで流してくれたのです。つまり、わずか四回での結審は事前にわかっていたことです。
弁護団による原告団への嫌がらせはこれだけではありません。最悪だったのが、この訴訟を呼びかけ、多くの原告を集めた事務局長(当事)のS氏を批判し、他の約20人の弁護士とともに彼の弁護を辞任してしまったことです・・・原告が弁護士を解任するのはよく聞くけれど、委任を受けた弁護士が、訴訟を始めた原告を辞任するなんて初めて聞いた。こうなると、他の弁護士を探すことはほぼ不可能で、原告は裁判をあきらめて原告を降りるか、弁護士をつけない「本人訴訟」をするかしかありません。
なぜなら、弁護士の世界は職能集団としてつながっているから。それに、原発メーカー訴訟の共同代表は、映画「日本と原発」で有名な河合弘之氏。河合氏は「脱原発弁護団全国連絡会」の共同代表として、全国の「 反原発」訴訟をとりまとめているような人物と言ってもいい。その彼と対立してしまったS氏側につく弁護士など日本では探せないのです。
こうやって原告団は、弁護団派と本人訴訟派、そしてどっちにもつきたくない派の三つに分裂してしまいました。その後、本人訴訟をめぐって原告間にはさらに対立が生まれ、MLでの発言が規制され、MLも分裂することに。こうして、原告団はすっかり求心力をなくして四分五裂する羽目に。つまり、弁護団は訴訟の中心人物を追い出すことで原告団をばらばらにし、実質的に訴訟を乗っ取ってしまったのです。目的? 四回で大人しく弁論を終えるためです。この間、海外原告は誰からもアテンドされないままほったらかし。また、裁判をめぐる論点についての議論など皆無の状況になりました。・・・本来はこの時点で、本人訴訟派(選定当事者制度を採用)が目を覚まし、まったく新しい角度から再提訴するか、別の訴状を用意すればよかったんですけどね、実際は彼らの主張は訴状より穏やかなものになってしまいました。
こうして原発メーカー訴訟は、対立する二つの事件(弁護団派と本人訴訟派)を同時に審査するという、異例な形で進められました。裁判が終わると、二派はそれぞれ別の場所で記者会見なり報告集会を行うという、これも異例の展開。判決文も、この二事件をいっしょくたにし、両者の主張をともに棄却するものとなっています。山本は、この判決文を見て、裁判所と双方の弁護団が、原告をせせら笑っているような印象を受けました。無駄なあがきはやめろ、と。
裁判は弁護士に丸投げで、と考える無邪気な人々ばかりでは、裁判で「闘う」なんてどだい無理です。自民党政権、戦争できる体制、企業優先社会、そんなものを支えてきた屋台骨の一つが裁判所を含めた法曹界であることを知っとかないと。2016.7.15