南京だより:南京大虐殺記念日

南京事件―音の記憶
 
12月13日、この日ほど自分が「南京にいる」ことを強く
感じさせてくれる日はありません。
 この日は南京大虐殺記念日。
いつもと変わりない朝は、10時になると一変します。30分間、
町じゅうにサイレンの音が鳴り響くのです。初めは3分の間
を置いて。やがて間隔が短くなり、最後は間断なくなって終
わります。音の効果は絶大です。人にもよるでしょうが。
 
 このサイレンを聞くのも3回目。
 最初は授業の途中でした。南京出身の学生にいわれを聞き、
涙がこぼれて困りました。二回目の去年は、いたたまれずチャ
リで大虐殺記念館に行きました。新装なった同館の見物客の波
にもまれ、たくさんの資料を見て疲れて帰宅しました。三回目
の今年は、中華門に行くつもりが寝坊して、アパートで一人、
響きわたるサイレンに聞き入っています。そういえば、今年
6月には四川大地震の慰霊サイレンがありましたっけ。



 昨夜の
TVニュースでは、去年封切られた「南京、南京」とい
う映画に、南京方言の指導として雇われた高齢の女性のことを
報道していました。彼女は事件の幸存者です。
 女の子だとわからないように、父親に頭を丸坊主にされ、
ラーベに「行かないで、あなたが帰ったら私たちはみな殺され
てしまう」と訴えた記憶の持ち主、多くの家族・親戚の殺害を
目撃した経験の持ち主。その悲しみの表現はすばらしく、裏方
から、「役」が与えられました。


 しかし、大勢の市民役は必ずしも事件を知らず、うまく
動いてくれません。映画のメーキングフィルムでは、監督が
「笑うな、生死がかかっているんだ、もっと必死な表情で」
と言っても、エキストラは穏やかな、のんびりした顔つき。
そこで彼女がマイクを取ります。「今の人にはわからないか
もしれない。でも、こんな映画に出て笑っている人を見ると
本当に悲しい。私はこの目で、おじが、おばが、いとこが殺
されるのを見た。南京大虐殺なんかなかった、ウソだという
人がいるが、全部事実だ。歴史は塗り替えられない…」
 その後、撮影はうまく行ったと言います。



 大虐殺記念館では、今年新たに写真や手記、手紙など
500
以上の新資料を入手したそうです。でも、ここ数年で70年前の
事件の体験者、幸存者は激減しています。それとともに、日本
では「なかった」派が勢いづくのかもしれません。でも、南京
大虐殺は日本軍の悪事のほんのひとコマ。戦争できる国が何を
やらかすか、やらかしてきたか、それを追及するのは後世の人
みんなに課せられた義務だと思います
。(20081213

この記事を書いた人

hiromachi