コメ作りもできない、産廃処分場の汚染(広島県三原市のケース)

再び「産廃処分場」問題。都会には処分場などないので、廃棄物問題の深刻さに気づく都市住民はごく少数です。でも、焼却炉や処分場が立地する地域ー多くが人口の少ない農山漁村―では、飲料水汚染や農業、漁業への悪影響など、まさに生存がかかる問題です。この記事では、広島県は三原市の深刻な処分場汚染を取り上げます。***

産廃処分場近くの農家「水質悪化」でコメづくり諦める 処分場認可取消訴訟2審で住民と県の対立長期化【広島発】 2024年10月7日 テレビ新広島 https://www.fnn.jp/articles/-/768256(一部) 広島県三原市の産業廃棄物処分場をめぐり、住民と県の対立が長期化している。住民が認可取消を求めた裁判で2023年、1審は住民の主張を認め、認可取消を県に命じたが、県が控訴し2審に突入。「水質の悪化」を理由にコメづくりを諦めた農家も出ている。

「カエルが死ぬような水じゃ…」産業廃棄物の最終処分場がある広島県三原市本郷町の日名内地区。12軒のコメ農家のうち2軒が作付けを諦めていた。

作付けしなかったコメ農家・吉田憲作さん「そこでカエルが死んでいた。カエルは、手を前に縮めて死んでいるのが普通だが、手足をピンと伸ばして死んでいた。何か因果関係があるのか、川が原因なのかは、言いづらいが、カエルが死ぬような水じゃ田んぼに入れても困る」 先祖代々の土地を守ってきた吉田さんだが、作付けしなかったのは、あくまで「自己判断」のため補償は出ない。

川にはヘドロ状の堆積物 最終処分場のすぐ下を流れる川は、水中が濁ったように見える。川底がオレンジ色になり、ヘドロ状の物質が堆積している。また、オレンジ色の堆積物のようなものが流れていくのが見えた。

五十川裕明ディレクター:「長靴で土の部分を掘ると、黒い土が露わになり、オレンジ色の川に流れでました」。近くに住む竹之内昇さんは、「孫のため、後世のために、きれいな川を守るという思いでやってきたが、元に戻らなくなっていくのが、残念で悔しい」と漏らす。(中略)コメ農家・柄崎雅司さん「おいしいコメを皆さんに食べてもらうのが生きがいだが、この川の汚染の風評被害が起きたときに、いいコメができてもいいコメではないと言われてしまうのが残念です」。取材した五十川ディレクターによると、「イネの生育に川の水は必要不可欠」だが、収穫したコメの検査で「万が一異常があっても、責任の所在と、補償の有無は現段階では不明確」ということだ。

 「本郷産廃処分場」は、安定五品目(廃プラ、ゴムくず、金属くず、ガラス・陶磁器、がれき類)を埋め立てる「安定型」処分場として、2022年9月から稼働しています。事業者である東京の 「JAB共同組合」によれば、埋立面積96,939㎡、埋立容量1,038,125㎥の「大型処分場」で、毎月3,000トン前後の産廃を埋め立てているとのこと(https://www.jab-cp.jp/service/index.html)。問題は、メディアの多くが、「川水の濁りと処分場の関係は明らかではない」と伝えていること。でも、名前こそ「安定型」ですが、埋め立てた物質は決して安定しているわけではなく、廃棄物同士が、あるいは処分場浸出液などに反応すること、そこから様々な有害物質を排出することが知られています。

「一般的な埋立地から出る浸出液の外観は、強い臭いのある黒、黄色、またはオレンジ色の濁った液体です。この臭いは酸っぱくて不快で、メルカプタンなどの水素、窒素、硫黄を多く含む有機物のため、非常に広範囲に及ぶ可能性がある」「埋立地浸出液は、溶解性有機物(アルコール、酸、アルデヒド、短鎖糖など)、無機マクロ成分(硫酸塩、塩化物、鉄、アルミニウム、亜鉛、アンモニアなどの一般的な陽イオンと陰イオン)、重金属(Pb、Ni、Cu、Hg)、ハロゲン化有機物(PCB、ダイオキシンなど)などの生体外有機化合物の4グループの汚染物質の水ベースの溶液として特徴付けられる場合がある」「その他、多数の複合有機汚染物質も検出されている」Wikipedia英語版

 つまり、住民らが目にしている「オレンジ色」は、有害な「処分場浸出液」そのものです。しかもこの処分場そばの川では、変色や泡立ち、異臭などがくり返し目撃されていることから、処分場からは、汚染度の高い浸出液が常時排出されていると考えられます。当然、「風評被害」のレベルじゃない。その中でコメの作付をあきらめたのは、良識的な判断でしょう。この状況を前に、住民らは、独自の調査で川水の汚染を証明し、認可の取消を求めて広島地裁に提訴。同地裁は2023年、市民の訴えを認めて県に認可取消を命じる判決を出しています。画期的な判決です。しかし、広島県はこの決定を拒否し、上告したため、今は控訴審の最中。…裁判所も廃棄物問題のことはわかっていないから、上級審では「政治的決着」となるかもしれません。

 ところがそのただなかの今年7月、県が「しみ出た2か所の水」(注:浸出液かどうか不明)を検査したところ、基準値の1.7倍と1.8倍の鉛が検出されました。県は8月7日、県は事業者に対し、一時的に搬入と埋立中止の行政指導を出しましたが、一か月もしないうち操業再開を認めています(基準値超の鉛検出 産業廃棄物最終処分場 県が再開認める)。鉛の来歴は不明・・・しかし、その後、10月の検査で、またも川の汚染度を示すBODが、基準値の7.5倍に上ることが明かになり、県は再び事業者に行政指導を発しています(三原市 産業廃棄物最終処分場で「基準値超」県が4回目の指導 2024年11月11日NHK)。これで四回目の行政指導。このことからわかるのは、事業者は汚染を止められず、県には汚染を止める気など全くないということです。11月13日、本郷町の住民グループは、原因究明などを求める陳情書を提出しました。

【三原・竹原市民による産廃問題を考える会・三島弘敬さん】「業者に適格性が欠けている。やることがすべて悪意に満ちている。停止命令または取り消し処分、4回も重なったら当然そうだと思う。即時レッドカードで退室してもらうしかない」「業者に適格性が欠けている」産廃処分場の水質汚染問題 地元住民 …広島ニュースTSS 

 適格性がないのは汚染を軽視し、住民の苦しみを放置している広島県の方です。業者は、事業を受け入れてくれる行政さえあれば、水源地だろうが小学校の真ん前だろうが、どこでもOK。県は、「地域振興」の名の下に、むしろ積極的に処分場を誘致したがるのです。その悪例が、前記事でとりあげた鳥取県の淀江産廃処分場事件。そして、いったん建設されたら、処分場の汚染は半永久的に続きます(よほど大規模な復元工事を行わない限り)。住民は、まず、「汚染のない廃棄物処分場などない」ということ、そして「廃棄物処理業と県との熱い関係=住民騙しの図式」を知っておかないと。そこから、新規の処分場は絶対作らせない、古い、あるいは稼働中の処分場はなるべく早く閉鎖しなければならないという方針がはっきりするでしょう。2024/11/25

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
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