とても悪質、尾去沢鉱山の廃水データ改ざん

 何回か書いているように、鉱業は最悪の公害事業です。稼働中はもちろん、閉山後も長期にわたって廃水や鉱滓処分場の処理を続ける必要があります。それを怠るとたちまち「鉱害」がもたらされるからで、国も閉山後の鉱山の保安のため巨額の税金を投じていますが、鉱山跡地は人口が少ない山中にあることが多く、実態は闇の中。そんな状況下でこういう↓事件がおきるわけ。

鉱山で汚水排出、データも改ざん 秋田・排水処理会社

2015/4/2
11:35 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG01H8D_S5A400C1000000/ 1978
年に閉山した尾去沢鉱山(秋田県鹿角市)で、廃水管理をしていた会社が、鉛濃度や酸性度が基準値を超えた廃水の一部を2005年から8年余りにわたって無処理のまま流し続け、データも改ざんしていたことが2日までに、分かった。経済産業省関東東北産業保安監督部は、鉱山保安法などに違反したとして、廃水処理をしていた処理会社「エコマネジメント」(東京)を厳重注意し、補助金約2千万円の返還を命令した。環境被害は確認されていない。同社は三菱マテリアル(東京)の子会社で休廃止鉱山の環境管理をしている。同監督部によると、エコマネジメントは05年4月~13年7月、雪解けや大雨で増水した時期に処理できなくなった廃水を、無処理のまま隣接する米代川に流出。
当時の処理能力は毎分1.5トンだったが、増水時は最大毎分約13トンになるといい、違反した日数は計491日あった。無処理のまま流した廃水は、鉛が基
準値の1.5倍。数値が小さいほど酸性度が高いpHも3前後で、基準値の5.88.6より高かった。同社によると、東京の本社の技術職員が昨年9月、地元の処理所でデータが改ざんされていることを確認。監督部への報告の書類も適正な数字に書き換えられていたという。同社は「地元の皆さまに迷惑をかけて申し訳ない。対策に全力を尽くす」とコメントしている。監督部が返還を命令した補助金約2千万円は違反のあった491日分で、今後、補助金は1年半停止される。〔共同〕

 これは経産省の記者発表を記事にしただけで、メディアの特ダネでもないし、ましてや経産省が自らつきとめたわけでもありません。おそらく「内部告発」でしょう。そう思ったのは、「8年にわたったこと」と「本社の技術職員が確認」とあるから。実に嘘っぽい。で、念のため担当課に尋ねてみました。以下はやりとりの概要(一部)です。

「いえ、内部告発ではなく、自己申告です。去年9月、エコマネジメント社から実は・・・と連絡があって…」

「立ち入り検査は定期的に行っていましたが、発見できなかったんです。理由ですか?大雨の時に遭遇しなかったこと、そして、日誌に至るまで完全に改ざんされていたので…」


「保安委員会の記録?それは私は把握していませんが、立ち入り検査と司法捜査を行い、必要な文書はすべて確保してあります」


「文書とは日誌とか…当時の職員の証言とかですが、どんな文書があるかということは即答できません」

 おかしい。法律で決められている文書は入手してない。それに毎年立入検査していた現地の監督職員が8年もの間騙され続けていたのに、たまたま行った東京の技術職員が「みつけた」?  そうじゃなく、内部告発を受けて現地に行った職員が事実であることを知り、だからこそ「確認」という言葉を使っているのでは?

 もっとおかしいのは、これほど悪質な犯罪を、経産省は「厳重注意」だけの極めて軽い処分で済ませていること。↓の文書は割と「厳しめ」だけど、処分はえらく寛大。

エコマネジメント株式会社による鉱山保安法違反等及び補助金の不正受給に対する措置(PDF形式:121KB)

別添:坑廃水処理に係る鉱害防止の徹底について(厳重注意)(PDF形式:123KB)

 鉱山保安法は、いわば鉱毒防止法であり、事業者に、周辺と下流域の環境とそこに住む人々を守るための非常に重要な義務を課すものです。しかもその費用は税金だというのに、同社がやっていたのはこんなこと↓だから、許せん(上の「厳重注意」を簡略化したもの)。

①適切な坑廃水処理施設の処理能力及び貯水能力を設けていなかった、②排水基準に適合しない廃水を公共用水域(米代川)に排出していた、③上記廃水の水質を測定、記録及び保存していなかった、④上記廃水を公共用水域に排出したとき応急措置を講じていなかった、⑤上記廃水の水質を測定せず、排出した事実を含め記録せず、巡視または測定について必要な措置を講じず、及び坑廃水の水量を改ざんして記録していた、⑥上記廃水を公共用水域に排出した事故の概況を当支部に報告していなかった、⑦鉱害防止事業計画の届出について、改ざんした坑廃水の水量を記載した、⑧使用済特定施設に係る坑水又は廃水の状況の定期報告について、改ざんした坑廃水の水量を記載していた

 基準値超えの廃水を8年も流していた(常時ではないにせよ)ことがバレれば、普通ならまず操業を停止され、罰金を払い、下手すると刑事訴訟に持ち込まれ、工場も閉鎖されかねません。ところが、経産省は、この「無処理期間」に総額約47千万円の税金をつぎ込んでいたのに、返済を求めているのはわずか2千万円。さらに、この補助金には根拠法さえなく、毎年、「鉱害防止等工事補助金」としてフツーに予算措置されているというから、「鉱業」分野がいかに黒い霧で覆われているかわかるというもの。

 そこで、「刑事訴訟を起こすつもりは?」と聞きました。当然、公文書偽造とか、詐欺罪にあたるからで、こういう場合、告訴告発は監督省庁の責務だと考えるからです。

 ところが相手は言いよどんだあげく、「いえ…いいえ、訴訟は考えていません」。で、「それが経産省としての結論なの? なんであなたが答えられるの?」と追い打ちをかけると、相手は急にきっぱりと「そうです!訴訟は考えていません」…これが彼個人の意見か、そばで誰かが回答を指示していたのかは不明ですが、いずれにせよ、経産省は「違法行為だけど見逃す」と言っているわけ。当然、その底には省庁が関与した莫大な補助金流用事件があると考えられます。鉱業ってそういう世界です。だから、誰も鉱業や鉱毒、鉱害事件をやろうとしない。2015.4.3

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/