「エートス」拒否の双葉町長に不信任

  まっとうな考えの首長を、「復興」の妨げになるとして排除する日本。福島県双葉町長の不信任には、「フクシマの泥沼」が凝縮されているような・・・まず、下の声明をお読み下さい。

町民の皆様へ
 町民の皆様、皆様の苦しみは計り知れないものです。毎日、皆様と話し合いができれば良いのですが、なかなか叶えられませんことをお詫び申し上げます。私が一番に取り組んでいますのが、一日も早く安定した生活に戻ることです。双葉町はすぐには住めませんが、どこかに仮に(借りに)住むところを準備しなければなりません。そこで、国と意見が合わないのは避難基準です。国は年間放射線量20mSvを基準にしていますが、チェルノブイリでは悲惨な経験から年間5mSv以上は移住の義務と言う制度を作りました。
 私たちは、この事故で最大の被ばくをさせられました、町民の皆様の健康と家系の継承を守るために、国に基準の見直しを求めています。この基準がすべてです。仮に住む場合は安全でなければなりません。子供たちには、これ以上被ばくはさせられませんし、子どもたちが受ける生涯の放射線量は大きなものになります。事故から25年が経ったウクライナの子供たちには働くことができないブラブラ病が多く発生しているそうです。
 私はこのようなことが一番心配です。町は絶対に事故を起こさないと言われて原発と共生してきました。しかし、今は廃虚にさせられ、町民関係も壊されました。自然も、生活も、生きがい、希望やその他すべてを壊されました。一方どうでしょう。これほど苦しんでいる私たちの思いは、皆さんが納得いくものになっていないのです。これを解決するのが先だと訴えています。

私が皆さんに多くの情報を出さないと叱られていることは十分承知しています。出したくても出せないのです。納得のいくような情報を国に求めていますが、出してこないのです。国とは隠し事のない交渉をすることを求め続けてきています。町民の皆様を裏切ることは決していたしません。これから多くの情報を出していきます。
 放射線の基準に戻りますが、ICRP(国際放射線防護委員会)勧告を採用していると国では言いますが、国際的に採用している訳ではありません。ヨーロッパには独自の基準があり、アメリカでも自国の基準を作って国民を守っています。最近のICRP勧告では日本を非難しています。もう120mSvを採用しなさいと言っています。これは大変なことで、区域見直しも賠償の基準も変わってきます。このような中で冷静にと言っても無理かもしれません。このような環境に置かれているのだから、皆さんの要望を常に政府、与党には伝えてきました。政争に振り回されて進んでいません。福島県内に避難している町民を県外に移動してもらう努力はしましたが、関係機関の協力は得られずにいます。しかも盛んに県内に戻す政策が進行しています。県に理由を聞いても納得のいく返事は来ません。町民(県民)の希望を国に強く発信して頂きたいと思います。



 町民の皆さん、損をしないでください。財産には目に見えるものと見えないものが有りますので、区別しなければなりません。目に見えるものは形や重みのあるもの価値が直ぐに判断できるものです。見えないものは未来です。一番心配なのは健康で、被ばくによる障がいであります。ウクライナでは障がいに要する費用が国家の財政を破綻させるような事態になっています。今のウクライナが25年後の日本であってはならないのです。子供に障がいが出ればとんでもない損害です。この見えない、まだ見えていない損害を十分に伝えきれていないもどかしさがあります。まだ発症していないからとか、発症したとしても被ばくとは関係がないと言われる恐れがあります。水俣病のように長い年月をかけて裁判で決着するような経験を町民の皆さんにはさせたくありません。


昨年の早い時期から町民の皆さんの被ばく検査を国、東電、福島県にお願いし、被ばく防止も合わせてお願いしてきました。しかし、思うようになっていません、原発事故による放射能の影響下に住むことについて拒むべきです。


損について一部しか言いきれていませんが、一番大きなこと、何年で帰れるかについて申し上げます。今は世界一の事故の大きさのレベル7のままだということ。溶けた核燃料の持ち出し終了が見通せないこと。処理水をどうするのか、核物質の最終処分はどのようにいつまで終わるのかなど多くの要因を考慮して、木村獨協大学准教授が最近の会議の席上、個人の見解として双葉町は場所によっては165年帰れないと発言しました。私には可か不可の判断できませんが、大変重要な言葉だと思います。半分としても80年だとしたら、この損害は甚大なものです。また、被ばくの影響についても責任者に対して担保をとっておく必要があります。
 中間貯蔵施設については、議論をしないまま、調査だから認めろと言いますが、この費用の出どころを確かめることが重要です。この施設は30年で県外に出すと国は言っていますが、約束は我々とはまだ出来ていません。この施設の周りには人が住めません。六ヶ所村では2km以内には民家がないようで、双葉町では町の中心部が殆ど入ってしまいます。では、どうするのかの議論が先です。ボーリング調査を行うのは着工です。予算の構成を見ますと、整備事業の下に調査費が付いています。これは行政判断としては着工になります。着工の事実を作らせないために、私は非難覚悟で止めていることをご理解ください。十分すぎるほど議論して町民の皆さんの理解の下に進めるべきです。日本初の事業です。双葉町最大の損害で、確かな約束を求める事をしないまま進めてはやがて子供たちに迷惑をかけます。新政権とじっくり話し合いをして、子供たちに理解を貰いながら進めます。このように、私たちには大きな損害があることをご理解ください。寒さが一段と厳しくなりました、風邪や体力の低下に気をつけて予防を心がけてください。これからもお伝えします。
 平成241220 
 双葉町長 井戸川 克隆


双葉町役場 埼玉支所〒347-0105 埼玉県加須市騎西598-1(旧埼玉県立騎西高校内)電話:0480-73-6880(代表) FAX:0480-73-6926


Eメール:saitama@town.futaba.fukushima.jp 
 原発誘致自治体としての苦悩の声明ですが、この「住民を汚染地に戻すな」との主張が、国県主導による住民呼び戻し政策(エートス作戦)に真っ向から対立しているのです。チェルノブイリで移住を義務づけた「年間5mSv以上」とは、日本でも311以前は「放射線管理区域」でした。でも今、福島県民150万人が、そこで、なにごともなかったかのように暮らしているのです。政府はさらに、「安全への逃亡」を選んだ人々を呼び戻そうとしていますが、その受け皿となっているのがフクシマ・エートスETHOS IN FUKUSHIMA
 飲食物や生活習慣に気を配れば、汚染地でも生きられるというノウハウなども伝えていますが、汚染大気の中でどれほど気を使っても、被ばくはまぬがれないのは常識。福島県はすでに、チェルノブイリを越える壮大な人体実験の場となっているのです。
 ところで、この声明と同日、双葉町議会は全員一致で井戸川市長不信任決議を可決しています。国のいうことを聞かず、金になる事業を拒否する町長なんぞ要らねえ、ってこと。
双葉町長:不信任決議案を可決 中間貯蔵施設建設巡り


毎日新聞 20121220日 1158分(最終更新 1220日 1209分)
 東京電力福島第1原発事故で埼玉県加須(かぞ)市に役場ごと避難している福島県双葉町の町議会は20日、井戸川(いどがわ)克隆町長の不信任決議案を全会一致で可決した。同県内で進む除染で生じた汚染土などを一時保管する中間貯蔵施設建設を巡り、国が発表した候補地の現地調査受け入れを決めた会議を井戸川町長が欠席したことが主な理由。地方自治法に基づき、町長は10日以内に辞職するか議会を解散するかを判断するが、記者団に「週明けに判断したい」と語った。
中間貯蔵施設の建設候補地は双葉町の2カ所を含む計9カ所。国は年明けにも現地調査開始を予定しているが、町政の混乱が影響を与える可能性もある。井戸川町長は11月、県と双葉郡町村長の会議を「最終処分場のあり方など、国から納得のいく回答が得られていない」として欠席した。不信任決議案は、岩本久人町議が「町民に混乱を与えた」として12月定例会に提案。採決では、出席議員の4分の3以上の賛成が可決に必要だったが、佐々木清一議長を含む全8議員が賛成した。この問題で町議会は今月12日に辞職要求書を提出したが、町長は「避難区域見直しや中間貯蔵施設の問題など重い使命を負託されている中で辞任できない」と拒否していた。町長が議会を解散した場合、町議選後に不信任決議案が再提出されれば、今度は出席議員の過半数の賛成で可決となり、町長は失職する。町議会では今年6、9月にも、役場機能を福島県内に戻すことを巡って「町長の決断が遅い」などとして不信任決議案が出されたが、いずれも賛成が出席議員の4分の3に達せず否決された他にも震災後の町長の対応を巡って議会側の批判が絶えず、溝が広がっていた。【大平明日香、神保圭作】
◇町民「また復興遅れる」


 加須市騎西総合支所3階にある双葉町議場の傍聴席には多くの報道陣が詰めかけ、午前9時の開会前には全40席のほとんどが埋まった。岩本久人町議は不信任決議案の提案理由を「中間貯蔵施設の現地調査受け入れの会議を欠席したことに町民は驚き、落胆した。多くの町民を失望させたことで信任することはできない」などと述べた。それに対して井戸川町長は「中間貯蔵施設や賠償問題など、多くの仕事が残っている中でこの決議は残念でならない」と反論したが、質疑や討論もなく可決された。


http://mainichi.jp/select/news/20121220k0000e040154000c.html
 ふつう、議会が不信任をつきつけることはめったにないから(町長の解散権を恐れて)、国県ゼネコンが、選挙費用の面倒はみるから、とプッシュしたのかもしれませんね。中間処理場建設は、環境省がなんとか実現させたいと考えている、次のターゲットです。町長は、エートスを拒否する一方、中間処理施設の建設にも反対するという、難しい舵取りをせまられているわけ。
 なお、上の記事の「町民が復興を望んでいる」かのような見出しは誤誘導です。生きている間に双葉町に戻れると考える町民はごく少数で、「復興」を望んでいるのは、底なし・大型復興予算に群がるゼネコンなど利権組のはず。汚染地「復興」という実現不可能な事業につづこむ予算のごく一部があれば、町民を安全な地域に移し、暖かい家と仕事を世話することくらい簡単にできるのですが、それができないのは「エートス」が最優先されているから。怖いですね。これを拒否するためには、双葉町を「解体」してしまうのが一番の近道かもしれません。地方自治体が消滅しても、土地の権利は残るから、中間彫像施設に関する協議は続けられる。関係者はご一考を。2012.12.24

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/