生駒市ががれき受け入れを拒否(決定)!

 奈良県生駒市の若い市長が、がれき受け入れ拒否を決定。きちんとした主張なので、長いけど全文貼り付けます。行政のトップが、こういう論理的考え方ができる人なら、当然、がれきは拒否できるでしょう。これと対照的なのが、「(反対されて)意地になった」と述べる静岡県島田市長、「黙れと言えばいいんだ」と述べる都知事。単に首長だけでなく、有権者の資質も試されているのです。
 下のサイトから、山下真生駒市長に直接メールできるので、みなさん、エールを送ってあげてください。http://www.city.ikoma.lg.jp/blog/2012/06/post-299.html#more

東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理に係る本市の見解 2012619
1 本件については、昨年415日に県を通じて国から受け入れ可能量の調査があって以来、本市において検討を重ねてきましたが、今般、最終的に受け入れしないことと決定致しましたので、市民の皆様にお知らせ致します。

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 東日本大震災の被災地に対しては、被害を受けなかった自治体として、最大限の支援をすべきとの考えに基づき、震災発生直後から、物資の送付、消防職員をはじめとする市職員の派遣、義援金の募集と送付、私や幹部職員のお見舞いと視察、避難者の本市での受け入れ等々、考えられることを全てやって参りました。今年の夏については、放射能の影響で屋外での活動が十分にできない福島県南相馬市の小学生40名を本市に招く事業に官民一体で取り組んでおります。

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 本件についても、当初は、焼却炉の処理能力に余力のある本市としては、できれば震災がれきを受け入れ、被災地のお役に立てればと思っていました。そして、私自ら、新聞、雑誌、書籍、インターネットなどにあたり、また、市民団体主催の勉強会や国・県主催の説明会に参加して、情報を収集しました。しかしながら、以下に述べるとおり、疑問点が払拭できず、私自身が疑問を拭えないことは自信をもって市民に説明できないとの考えから、本市においては震災がれきを受け入れないことと最終的に決定致しました。
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(1) その疑問点ですが、第一に広域処理の必要性です。今回、広域処理の対象となっているのは、宮城県と岩手県のがれきで、宮城県ががれき全体の2割で344万トン、岩手県が1割で57万トンとなっています(その後、精査の結果、両県合わせた広域処理対象量401万トンが4割減少し、247万トンになりました。)。広域処理の対象となっている量が全体に占める割合を見る限り、これだけのがれきの処理を県外で処理することができなければ復興が遅れるという理屈は即座には理解できません。
 また、がれき仮置き場は沿岸部など当面、土地利用の予定がないところに設けられていることが多く、その土地をすぐにでも利用しなければ復興が進まないとする具体的理由があまり考えられません。私が被災地にお見舞いと視察に行ったとき、岩手県陸前高田市では津波をかぶった沿岸部にがれきが仮置きされていました。宮城県名取市でも同様でした。そして、陸前高田市の復興計画では、沿岸部は防潮林や防災メモリアル公園にすることになっていました。即ち、仮置き場のあるところをすぐに住宅や産業施設の用地にする計画はありませんでした。仮に、がれきの仮置き場の土地をすぐ使う必要があるとしても、近隣の民間所有地や他市町村の公有地など、後述する「封じ込めの原則」に従い、近隣で仮置き場の土地を確保できないか、十分に探す努力をする必要があると思います。しかし、広域処理を進めるにあたって、そのような努力をしたのかどうか不明です。
 私は、こうした疑問点について、本年413日に橿原市で開催された国・県主催の説明会に出席し、環境省の担当者に質問しました。しかし、正直申しまして、あまり説得力のある回答は頂けませんでした。横光環境副大臣は、がれきがあると市民の復興に向けた意欲が消失すると言われておりましたが、そのような被災地住民の意見は聞いたことはないという新聞や雑誌の報道がありました。なお、この説明会における質疑は本文末尾に添付したリンク先からご覧頂けます。もちろん、被災地の方々の心情、仮置き中の火災発生や跡地利用の可能性等を考えれば、がれきの処理は早いに越したことはないと思いますが、それを広域処理でしか達成し得ないものとは理解できませんでした。


(2) 第二の疑問点は広域処理の経済性です。広域処理に伴い、多額の輸送費が必要になります。被災地で処理する方が雇用や経済への好影響が期待できるとの見解もあります(国・県主催の説明会での質疑参照)。また、被災地での仮設焼却炉の建設も、雇用や経済への好影響が期待できます。こういったことを全て斟酌した上で、広域処理が経済的にも合理性を有すると国が判断されたのかがわかりませんでした。


(3) 第三の疑問点は国の安全基準です。放射性物質については、封じ込め、拡散させないことが原則であり、その観点から国は、東日本大震災前は、IAEAの国際的な基準に基づき、原子炉等規制法により、放射性セシウム濃度が1kgあたり100ベクレルを超える場合は、特別な管理下に置き、低レベル放射性廃棄物処分場に封じ込めてきました(クリアランス制度)。しかし、東日本大震災後、環境省は「1kgあたり8000ベクレル以下の廃棄物は安全に分別、焼却、埋立処分等の処理を行うことが可能」との見解を発表しています。8000Bq/kgは「廃棄物を安全に処理するための基準」であり、100Bq/kgは「廃棄物を安全に再利用できる基準」であるとの説明です。しかし、実際に震災がれき受け入れを表明した自治体も、8000Bq/kg以下という基準よりさらに厳格な基準を設けています。例えば、大阪市は大阪湾の夢洲に震災がれきの焼却灰を埋め立てることを表明しましたが、埋め立てにあたっては、大阪府の専門家会議が決定した2000Bq/kg以下という、環境省が定めた基準よりさらに厳しい基準を採用するとしています。さらに、兵庫県はこの基準でも緩いとし、100Bq/kg以下を主張して、現在のところ、見解がまとまっていません。
 このように、震災がれきの処理基準は、専門家の間でも、また自治体の間でも見解が分かれています。また、住民として、基準は厳しければ厳しいほどよいと考えることも十分理解できます。相談できる専門家集団も擁していない中小の自治体としては、正直、どの基準に依拠すればよいのか判断がつかず、かといって、福島第一原発事故以来、政府に対する国民の信頼が低下している状況下で、「国がこう言っているから」という説明は住民に対してほとんど説得力を持ち得ません。従って、震災がれきの受け入れにあたり、安全基準をどう定めればよいのかわからない、というのが、自治体の偽らざる実状です。

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 最後に、仮に国の安全基準が不十分であるとした場合、低線量内部被爆の人体への影響が問題となりますが、これについては、未だ医学的知見が十分に確立されていないと思われ、行政として「影響がない」と言い切れる段階にはないと考えています。
〔平成24413日「災害廃棄物の広域処理に関する説明会」での質疑〕
※議事録全文はこちら 
http://www.pref.nara.jp/secure/82268/120413giziroku.pdf

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/