マルクール事故④ マルクールの簡単歴史

 (マルクール事故の続き。いろいろと学ぶことが多いのでもう少し掘り下げます。)  
 
 ところで、日本では「マルクールには原発(原子炉)はない」と紹介されていますが、実は、すでに閉鎖されたガス冷却型原子炉(UNGG型)が三基あります。プルトニウム製造用に1955年から使用されていたもので、イギリスの Magnox 型原発と原理は同じ、でも独自に建設されたのだとか。
 しかし1973年の石油危機以来、原発による電力確保はフランスの国策となり、マルクールには核エネルギーの研究開発、燃料製造・処理、廃棄などの事業が集中してゆきます。こうして、同地はフランス原子力産業になくてはならない地域となっていくのですが、それに伴う形で1980年には兵器用プルトニウム生産が中止され、1984年には最後の原子炉も停止されました(もっとも、プルトニウムの精製・処理などは1997年まで続けられていたようです)。activities related to refining and processing weapons materials at Marcoule ceased in 1997.
 1995年になると、MOX燃料製造工場が稼動し始め、原発から出る低レベル放射線廃棄物の修復・リサイクル、医療放射線機器などの処理なども始まりました。なお、1968年に稼動し始めた高速増殖(実験)炉のフェニックス Phénix は2009年に冷却停止され、将来は完全解体の予定とか。 この高速増殖炉について、日本語版Wikipediaは「1990年代には(ほとんどの国で)停止状態となり、フランスを除く欧州各国は開発を中止した」としていりますが、フランスもすでに中止し、この計画(もんじゅ、常陽、JSFR)にしがみついているのは日本だけです。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E9%80%9F%E5%A2%97%E6%AE%96%E7%82%89 

 フランス電力の8割をまかなう原発からは、毎年、大量の核廃棄物が生まれています。それに、今後は閉鎖原子炉も増えるため、廃棄物処理(溶融・焼却)を行なうマルクールの重要性はさらに増すでしょう。・・・でも、もとはといえば兵器用核燃料の生産施設。そこで起きていることが隠されるのは当然です。今回の事故でも、モンペリエ大学中央病院の特別ユニットに担ぎ込まれた重傷者は、症状が安定するとすぐに軍の施設(Percy Clamart) に移されています。彼の口から何を溶融していたかがもれるのを恐れ、軍施設に移すことで民間人との接触を絶ったのでしょう。
 実はこの爆発の前にも、何回か「事故」が起きていますが、事業者のソコデイ社は「顧客についても、処理対象についても」一切の回答を拒み、監督庁も、事故の前後に行った煙突のフィルターやセンサーの分析結果(これで溶融していたものが何か推測できる)を非公開としているとか。原発というのはすさまじい汚染を伴い(ウラン採掘から最終処分のずうっと後まで)、巨額の金が動く事業です。そこは、徹底した情報統制と奴隷労働の世界であり、必死にこじ開けない限り、真実は伝わってきません・・・やだね、こんなの。まず日本から脱原発を成功させなきゃ。(続く)2011.10.20

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/