つぶされた「プラスチック条約」

ごみ焼却炉、処分場汚染の問題だけでなく、PFAS汚染や膨大な再エネ廃棄物、深刻な海洋プラ汚染まで、深刻さの度合いを深めているプラスチック。その汚染を削減するために、プラスック生産量とプラ化合物の原材料使用を制限すべく、国際的な取組が進められてきました。しかし、何年にもわたる努力にもかかわらず、「プラスチック条約」は、土壇場でつぶされました。

プラスチック環境汚染防止 国際条約とりまとめ 合意再び見送り
2025年8月15日 NHK「…今回はスイスのジュネーブでおよそ180の国と地域の代表者が参加して5日から開かれていました。最大の焦点となったのはプラスチックの生産量の規制で、EU=ヨーロッパ連合や太平洋の島しょ国などが規制を設ける必要性を主張する一方、サウジアラビアなどプラスチックの原料となる石油の産出国は反発を続けていました。予定されていた最終日の14日も意見の対立が続き、会期を延長して15日の早朝まで協議が行われました。しかし、各国の溝は埋まらず、最後の全体会合で合意の見送りが決まり次回の会議で協議を継続することになりました。去年12月に韓国で行われた会議でも合意が見送られていて、規制をめぐる各国の溝が改めて浮き彫りになった形で、次回の会議に向けて課題を残しました。」

いえいえ、合意に反対しているのは決して産油国ばかりではありません。大規模生産/消費を続けたい先進国(特に化学産業界)も、間違いなくこの決着に喜んだはず。NH⒦は触れていませんが、彼らは最初から、現在の利益を確保できるシステムを変えるつもりなどなく、合意を拒否するにとどまらず、条約を完全骨抜きにする対案を用意していたのです。

‘壊滅的打撃」、プラスチック条約はプラ生産や汚染削減に失敗 「・・・条約交渉担当者らは、プラ生産やプラスチックに使用される化学物質への制限を一切含まない新たな草案を議論している。・・・その草案について、環境正義財団のCEO兼創設者であるスティーブ・トレント氏は、「まさに裏切りだ」と断言し、代表団にこれを全面的に拒否するよう呼びかけた。「このプロセスは化石燃料ロビイストの群れに完全に乗っ取られ、レベルの低い国々に恥ずべき武器として利用されている」「これは完全な失敗になる恐れがあり、草案は改善されるどころか、むしろ後退している」…国際環境法センター(CIELC)によると、この協議には少なくとも234人の化石燃料・化学業界のロビイストが登録していた。この数は、「欧州連合(EU)加盟27カ国とEUの外交代表団を合わせた数を上回る」at least 234 fossil fuel and chemical industry lobbyists registered 」

つまり、彼らは莫大な企業利益(あるいは個人の利益)を確保するために、大勢の企業戦闘員を送り込んでいたのです。国際会議や国際条約の議論は決して、公正で正義に基づいて行われているわけではなく、多くは「始まる前から」カネと人脈で方向性が決められているのです。「国際」という言葉に幻想を持っている人は、そこが国内政治よりはるかに汚く、冷徹な弱肉強食の戦場であることを認識しておかないと。しかも、そこで展開されることは、まるで「正義が行われている」ようにPRされるので、一般市民は「国際政治の真実」などまったく見透かせません。でも、それはこの会議に参加した大勢の活動家も同じです。以下は、私が以前、所属していたごみ焼却反対の国際組織、GAIAの、怒りに満ちた投稿。

2025年8月12日https://www.no-burn.org/ja/ambitious-countries-stand-strong-refuse-weak-plastics-treaty/ジュネーブ、スイス– プラスチック条約交渉(INC-5.2)の終了時、野心的な加盟国は大きな圧力と決裂したプロセスにも屈せず、プラスチックの存在そのものの脅威に対処できず、パリの気候変動交渉の致命的な誤りを繰り返すような弱い条約で会議を終わらせることを拒否した。…大多数の国々が、プラスチック生産の削減、有害化学物質の段階的廃止、特にウェイストピッカーのための公正な移行の保証、新しい専用基金の設立、そして合意に至らない場合には2/3の多数決による決定を行う必要性について同意したという事実にもかかわらず、少数の「志を同じくする国々」を自称する石油産出国が、成立にはコンセンサスが必要だと主張し、加盟国が投票を求めれば交渉を手続き上の議論に閉じ込めると脅して、各回の交渉を妨害した。議長と国連環境計画(UNEP)は、公平かつ効果的な交渉の場を準備できなかった。化石燃料と石油化学業界のロビイストが多数派を占め、交渉は混乱に陥り、市民は頻繁に締め出された。議長は少数派を優遇し、南半球諸国をしばしば無視した。大国が資金、政治力、そして影響力を振りかざしてこれらの国々を脅迫し、撤退に追い込んだ時、演壇からの沈黙は耳をつんざくほどだった。 これは多国間主義の精神ではなく、強制だ.・・・会議は、条約成立を求める国々をプロセスの中で迷わせる結果となった。驚くべきスケジュール変更、あからさまな透明性の欠如、深夜 2 時に始まる深夜会議、最終総会は、議長の最終草案が発表されてから40時間もたたない午前5時30分に始まったが、その知らせはわずか40分前に出された…」

   まるで、さる政党の「異分子排除」あるは「対立意見封じ」のプロトコルがそのまま使われているようですね・・・何回かそういう立場に立たされたことのある山本には、彼らの戦術がよくわかります。つまり、この「会議」は「合意見送り」などという生易しいっものではなく、露骨な妨害行為によってつぶされたのです。・・・私たちが知っておかなければならないのは、国連や国際機関というのは、一握りのグローバリストに仕切られた、国家行政組織をはるかにしのぐ、巨大な詐欺組織だということです(コロナ以後は、はっきり「テロ組織」と言っていい)。彼らの目的は、企業とその経営者、権力者にさらに権力を集中させ、彼らを富ませることにあります。当然、一般市民がどんなに苦労しても、彼らがその訴えに耳を傾けることはありません。せいぜい聞いたふりをして、市民をなだめすかして「だます」だけ。

上のGAIAの投稿は、こう結ばれています。

「・・・危機を解決するために何が必要かは科学的にこれまで以上に明確になり、国民の意識と懸念はかつてないほど高まっています。100カ国以上がプラスチック生産削減への支持を表明しています。これらはすべて、採掘から最終処分に至るまでのプラスチック汚染を阻止するための、力強い世界的な運動のおかげです。」

 …ごみ関連の団体は騙されやすい。私がGAIAを止めたのも、生産削減ではなく「ごみゼロ」を優先し、人為的地球温暖化の運動に傾倒していったことからです。なお、上の文章ですが、日本の場合、市民のプラに対する懸念は―メディアと政府の情報抑圧のためーそれほど高まっていません。また「100カ国以上の支持」とは、単なる政府の立場表明に過ぎず、もし産油国が報復措置―「禁油政策」など―を取ると、すぐに立場を変えるでしょう。一方の産業界は、これまでのように、メディアや学界、政界、NGOを繰って、根本的な「生産規制」「生産抑制」ではなく、「プラ設計の見直し、リサイクル、再利用」などの妥協案を打ち出すことでしょう。

 市民運動で「勝ち」を目指すなら、まずこのような現実―組織的詐欺、誤報、プロパガンダーに気づく必要があります。そして、国際機関という巨大詐欺機関にかかわる前に、自分が住む国、そして、自治体でできることから始めないとね。国際条約が必要になって来るのは、国境のない海洋汚染、そして大気汚染などの場合ですが、それもまた、各国独自の規制策の積み重ねから発展させることができるでしょう。・・・なお、大気汚染に関してはすでにPOPs条約がありますが、ほとんど知られていない。市民はその内容と限界を知るところから始めるべきかも。それにしても、ごみ問題は依然、難しい。2025.8.19

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/