もともと禁じ手だった核ごみの地下埋設処分

 核ごみ地下埋め立てについてもう一つ書いておきます。それは、原発が日本にて導入された当初、産官学を含むすべての関係者は、核廃棄物の地下埋め立ては絶対に避けるべき「禁じ手」であることをちゃんとわかっていた、ということです。

 それが明記されているのが、1962年4月に原子力委員会廃棄物処理専門部会が出した「中間報告」。この部会では、一年にわたって、①放射性廃棄物の処分・処理についての基本方針、②IAEAが出した海洋投棄勧告案等を検討していましたが、その中間とりまとめは次のようなものでした。(全文は⇒http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/ugoki/geppou/V07/N05/19620506V07N05.htm

1.基本的な考え方

(1)原子力開発を推し進めるに際して、放射性廃棄物は不可避の副産物であるが、これによるわれわれの生活環境への汚染は、できうる限り避けることが望ましい。したがって、現在の知識から安全であることが保証されないような場合には、放射性廃棄物の処分は監視が可能で安全な環境内にとどめるべきである。

(2)一般に放射性廃棄物の処理、処分を具体的に確立するためには、処理、処分によって一般環境の汚染の許される限度を設定することが要請される。この点についてはICRP勧告においても概念的に指摘しているところであるが、放射性廃棄物の処理方針としては、国民線量の立場から放射性廃棄物に対して線量の割り当てを決定することが望ましい

(3)わが国における放射性廃棄物の国内的廃棄についてはICRP勧告に沿って法律により規制しているが、放射性廃棄物の処分とくに海洋投棄については国際的にも深い関連があるので、国際的視野において確立すべきであり、またわが国における海洋利用の特殊性よりみて慎重に実施すべきであろう

(4)放射性廃棄物の処理、処方の分法については、まだ未解決の分野があるので、今後さらにその研究開発を積極的に推進する必要がある。

 原発の「負の面」をはっきり認めていたわけです。つまり、「原発を続ける限り、必ず毒性が強い廃棄物が生み出されるが、それらを安全に処理・処分する方法はまだ確立していない」。そこで、「核ごみによって一般環境が汚染されるのは避けられないため、放射能汚染の上限値などを決め、国民の被ばく限度も決めておこう」という基本方針を決めたというわけですね。その上で、彼らは核推進の二大組織であるIAEA(国際原子力機関)とICRP(国際放射線防護委員会)の勧告にもとづいて、次のような「最終処分」の方式をまとめます。これがすごい。

 

(3)最終処分方式

 高レベルの放射性廃棄物の処分方式としては現状では閉じ込め方式を原則とすべきであることは前述どおりであるが、現在各国が行なっているタンク貯蔵等の閉じ込め方式は常に監視を必要とするので最終的処分とはいえない。したがって処分を行なった後は管理を要しない段階の処分方式すなわち最終処分方式を確立する必要がある

 この最終処分方式としては次の2方式があげられる。

i)容器に入れて深海に投棄すること。

ii)放射性廃棄物を人の立ちいることの不可能なかつ漏洩の恐れのない土中に埋没したり、天然の堅牢な洞窟あるいは岩石層に入れること

 日本政府の「廃棄物」に対する姿勢を、これほどよく説明している文章はないでしょう。廃棄物の埋め立ては、英語ではlandfillといい、「埋め立て」の意味しかありませんが、日本語の「最終処分場」は、「監視も管理も不要処理法」、つまり「埋めて捨てる=後は知らんよ」ということを意味しているのです。そして、上の①海中投棄か、②土中埋設のうち、選ばれたのは①でした。

 

 「これらの方式については放射性廃棄物の最終処分の問題の重要性にかんがみ、経済性、安全性について最も望ましい方式を確立するため、大きな努力を払って研究を進めなければならないが、国土が狭あいで、地震のあるわが国では最も可能性のある最終処分方式としては深海投棄であろう。このため、海洋投棄を目標として処理方式および容器等についての総合的な研究開発を強力に行なう必要がある。なお、現状では容器に入れ海洋に投棄する場合でも、廃棄物は低および中レベルのものに止めるべきで、高レベルのものについてはその研究の進展により、安全性が確認されるまでは行なうべきでないと考える

 現行の放射線障害防止法では、放射性廃棄物の土中埋没は認められていない。わが国における地下水の分布とその利用状況、人口の分布状況などからみて、放射性廃棄物の土中埋没による処分は好ましい方法ではなく、今後も現行法通り禁止すべきであると考える。しかし、人の立ち入ることの不可能でありかつ漏洩のない土中、天然の堅牢な洞窟あるいは岩石層無人島など放射性廃棄物の処分の可能な場所の調査発見には努力すべきであろう。」

 狭い国土、地震多発国、地下水の分布、人口密集・・・核のごみの土中埋設は今後も現行どおり禁止すべき・・・ここにあげられている物理的、社会的背景は今もそのままです。変わったことといえば、核廃棄物の量が格段に増えたことでしょう。

 当時、海洋投棄がすすめられていたのは、単に国際的規制がなかったこと、そして(おそらく)もっとも安上がりな処分法だったからだと思われます。さらに、核推進の二大組織であるIAEA(国際原子力機関)とICRP(国際放射線防護委員会)が、それを支援するような勧告を出しており(それにもとづいて、上のような検討が行われた・・・でもこの勧告案そのものはまだ探し出せていません。ご存知の方、教えて!)。日本も1955年から1969年にわたって、主に伊豆半島の海域で海洋投棄を行っていました。

 それが、なぜ「禁じ手」だった地下埋設処分に切り替わったのか?

 これもまた、単に、廃棄物の海中投棄を禁じる国際条約「ロンドン条約」が成立したからです(1972年、発効は1975年)。廃棄物の海洋投棄による海の汚染が深刻化し、早急な規制が求められていたため、高レベル放射性廃棄物の海洋投棄はすぐに禁止されました。低レベル廃棄物は当初、許可制でしたが、1993年までにはすべての放射性廃棄物の海洋投入が禁止されています。

 でも、日本の取組は遅れました。政府がロンドン条約を批准したのは1980年、それから廃棄物処理法施行令の改正で廃棄物の海洋投入を全面禁止した2007まで、おそらくいろんな形で海洋投入を続けていたと思われます。なぜなら、日本の廃棄物処理法では放射性廃棄物を除外していたし、この分野で騒ぐ市民運動もー私が知る限りーなかったので、やりたい放題。

 原発は廃棄物処理の方法がいまだに見つからない、やってはいけない事業です。

 それに加え、TMI事故(1979)やチェルノブイリ事故(1986)も起きていたし、海洋投棄の「禁止」は原発から足を洗ういい機会でした。ところが、産官学ー特に学者ーは、「絶対ダメ」だった核の地下埋設へと180度方針を転換する中で、平気で前言をひるがえし、「地下埋設は安全」といい始めたのです。公共事業は自浄能力ゼロの分野であり、市民が監視しておかないと何でもありの社会だということを頭に入れておきましょう。

 なお、学者の中でもまともな人もいます。

核ごみマップは「科学的でない」 立石新潟大名誉教授が講演

07/30 05:00 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/122514?rct=n_major

【豊富】幌延深地層研究センター(宗谷管内幌延町)で研究されている高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の地層処分をテーマにした全国交流会が29日、同管内豊富町で2日間の日程で始まった。初日は新潟大の立石雅昭名誉教授(地質学)が講演し、政府が28日に公表した、核のごみの最終処分に適した地域を示す「科学的特性マップ」について「科学的とはいえず、国民の理解が得られるとは思えない」と批判した。住民団体「核廃棄物施設誘致に反対する道北連絡協議会」などでつくる実行委が主催。立石名誉教授は、東京電力柏崎刈羽原発の安全管理について新潟県に助言・指導する専門家会の委員を務める。

 

 とにかく、日本に「学者」「学会」というものが存在するなら、いいかげんに原発にも核ごみ埋設にもノーを言って欲しい。2017.8.4

 

 

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/