公共事業における自治会の役割 ④大田市の場合(続)

 前回の記事→公共事業における自治会の役割 ③島根県の場合―とても悪質 では「島根県」としましたが、実際は大田市でおきた廃棄物処分場問題をとりあげました。この件に関して、住民グループ「大田の自然と生活環境を守る会」が運動の総括として冊子を出していたので取り寄せました。この「宅野の海にダイオキシン」刊行についてには、下のようなコメントがあります。

 2008年(平成20年)末に持ち上がった「宅野のゴミ処分場建設」問題は、2012年4月、ついに大田市が建設に着工することで、環境や健康への影響を危惧する地元住民の反対の意志も押し潰されるかたちとなりました。(中略)事業の是非を検証するために、大田市に文書公開を申請し、入手した資料も段ボール箱にいくつも溜まりました。しかし、行政の理不尽な進め方に最後まで反対すれども力及ばず、宅野に永遠に取り除けない巨大なゴミ処分場を建設させてしまいました。この期に及んでは、せめて宅野住民の中にもこの建設に異を唱える者があったこと、住民有志がいかに声をあげ、行政がそれにどのような対応をしてきたか、それを時系列で整理し、実際に目にして体験した事実のみを書き残しておこうと、拙いながらも一冊の本にまとめました。

 100ページほどの冊子に、運動の経過と住民たちの訴えが、その時々の行政資料・新聞記事・提出書類などとともにざっくりまとめられています。…何より印象的だったのは、大田市のやりかたの汚さ、悪らつさ。これじゃあまるでブラック企業だ。

 一方的に立地を決定し、質問には答えず・対話要求には応じず、自治会を抱き込んで「同意書」を出させ、それをもとに都市計画決定。そして、当初予算を水増しした予算請求を上程(当初26億円が37億円に、最終的には41億円に。増額の根拠不明)。その間、反対派の行動に対してさまざまな妨害と嫌がらせを加え(会場を貸さない、有料にする、防災無線使用の際の「検閲」、会場からの締め出しなど)。筆者は語ります。

 「目的のためには手段を選ばず、数字をごまかし、ここまで市民を軽視したふるまいが出来るとは、本当に驚くばかりです」(同署から)

 大田市はかなり違法を重ねてきたらしいことが読み取れます。過疎化する地方都市では「役所」は最大の雇用主であることが多く、地元の「お上意識」も相当なもの。当然、行政に文句を言う市民はごく少数かゼロなので、「お上」の方も自分たちは何でもできると勘違いし、違法脱法も平気になってゆくものなのです。・・・それにしても、これはまるで「悪代官」と「百姓」の戦いじゃない?(注:百姓とは中国語の老百姓=人々の意味で使っています)。大田市職員の不祥事(前記事参照)を、市が警察沙汰にしなかった気持ちもよくわかる。

 驚いたのは、人口わずか38000人の大田市に、すでに三つの最終処分場があること。そこに第四の処分場(宅野)が本当に必要だったのか、についてはほとんど説明がなかったよう。

 大田市 新不燃物処分場 詳しく見る
 大田不燃物処理場 最終処分場 詳しく見る
 温泉津一般廃棄物処分場(最終処分場)詳しく見る
 仁摩一般廃棄物処分場(最終処分場)詳しく見る
  (出典:http://gomi-map.crap.jp/ck/14337.html

 しかも、恐ろしいことに、これら処分場はすべて山陰線、9号線に沿った海岸部にあり、放流水もすべて日本海に流されていること。現実に、市が実施した計画地の水質調査でも、基準値7倍のダイオキシンが、そして土壌からは基準値を越えるヒ素・鉛が発見されています。さらに、住民の調べで、計画地に隣接する深い沢が、不法投棄でほとんど埋めたてられていたことがわかっています。冊子には「背骨の曲がった魚や身のただれとるような魚がえっとかかるようになった」という漁師の言葉が、魚の写真と共に紹介されています。

 大田市は不法投棄の現場に隣接して一般廃棄物の処分場を新設している。
 これは何を意味するのか?首都圏の産廃が岩手・青森県境に大量に不法投棄された事件がありましたがhttp://www.takkonokoe.jp/annai/tc_3.html、島根県北部も、同じように山陽工業地帯や、北九州工業地帯の産廃の受け皿となっているのかもしれません。監督権限がある島根県が、こういう事情を知らないはずはないのに、何も手を打たず、放置してきたというのも、他の大規模不法投棄事件と同じ(知事が現状復帰、撤去命令を出していれば、こういう事態にはならない)。それを考えると、大田市の処分場問題は、これが終わりとはとても言えません。そのうち、石見銀山の跡地も処分場化するかも。
 とにかく、焼却炉や処分場問題に取り組んでいる地域の方、行政がどういう手を打ってくるかということがよくわかるので、一読されることをお勧めします。2013.12.11

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
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