何度かお伝えしている鳥取県米子市の「淀江産廃処分場」問題で、大きな動きがありました。
これ↓です。
漁協淀江が反対声明 美保湾の汚染を懸念/鳥取
毎日新聞2017年7月13日 地方版 https://mainichi.jp/articles/20170713/ddl/k31/010/435000c
県環境管理事業センターが米子市淀江町小波に計画している産業廃棄物管理型最終処分場に関し、美保湾周辺で操業する県漁協淀江支所は12日、「漁場汚染につながる事業は受け入れられない」として建設に反対する声明を出した。
計画を巡っては複数の住民団体が撤回を求めているが、生産者団体が反対の意思を表明するのは初めて。
声明は、計画地に隣接する一般廃棄物処分場から、同意もないままに処理水が塩川へ流れ込んでいると指摘。その上で最終処分場の操業は「良質な食料を供給する漁業者の権利を完全に無視している」「公害施設を作ることは土地の活力を奪い、経済力を弱める」と批判している。県漁協淀江支所の藤井邦浩委員長(42)によると、組合員らは最終処分場からダイオキシンなどの有害物質が塩川を下り、約2・5キロ先の美保湾に注ぐ恐れを危惧しているという。声明文はすでに同センターに提出した。藤井委員長は「なぜ名水の里に最終処分場を作るのか。漁業者には何のメリットもなく、不安だけだ」と話している。同支所の昨年度の水揚げ高は1億9300万円。鮮度を保つよう工夫した「淀江がいな鰆(ざわら)」のブランド化にも取り組んでいる。【小松原弘人】
めったにない快挙です。これで淀江産廃計画はおそらく先へ進められません。
一般市民にはなじみがないでしょうが、この記事に書かれている「漁業者の権利」とは、「漁業権」のこと。これが強いんだよね。漁業権は法律に定められているものではなく、古来から漁師の当然の権利として認められてきた財産権の一種です。この手の権利は「慣習法」と呼ばれ、「書かれた法律」である成文法よりずっと強く、たとえ、漁協本部が公害事業を受け入れたとしても、たった一人が反対を貫けば、事業は進められません(漁業協同組合の「決」とは違うので注意。漁業権は全員の同意が必要)。
そうやって、安定して漁を続けるための、「魚場を守る」ための仕組みなのです。なお、農山村にも同じような権利があり、こちらは入会権とか財産権とか呼ばれています。農民や漁民が自分たちの権利を忘れたところに忍び寄ってくるのが「公害事業」というわけ。
この漁業権の「強さ」をよく示すのが、山口県の最南端の小島、長島に建設予定の上関(かみのせき)原発計画です。
上関原発計画は、中国電力の金力の下、上関町や地元商工会議所などが大賛成、選挙のたびに推進派町長が生まれ、議会でも推進派が圧倒的多数、さらに、山口県知事が公有水面埋め立て許可さえ出していますが、それでも事業に着手できていません。なぜか。
本来なら、県が埋立て許可を出す場合、事前に、その海で操業している漁師全体の同意を得なければなりません。「同意」というのは、具体的には、漁師がそれぞれ補償金の額を交渉し、それを契約書などで認めたうえで実際に金を受け取るという意味で、この手続きの中で「漁業権の放棄」が認定されるわけです。ところが山口県知事はこの手続きを完全にスルーし、漁協本部と謀って本部に補償金を受け取らせていたのです。もちろん違法。でも、原発や廃棄物の場合、こういう違法が実に多い。
これに対し、立ち上がったのが、原発予定地対岸の「祝島」地区の住民と漁師たちでした。彼らは「補償金を受け取れ(=上関原発を受け入れろ)」という漁協本部の脅しに反発し、以後、十年近くもこの計画を一歩も進めさせないできたのです。彼らの知恵と勇気が新たな原発着工を止めているといっていい。なお、Wikiにはこの漁業権についての記載はない(入会権についての記載はあるのに・・・)ので、興味がある人は↓を読んでね。
上関原発問題 要になる祝島の漁業権問題 村岡知事が埋め立て許可
www.h5.dion.ne.jp/~chosyu/kanameninaruiwaisimanogyogyoukenmondai.html
www.h5.dion.ne.jp/~chosyu/gyogyoukensyoumetunojijitunasi.html
とにかく、淀江漁協の若い組合員のみなさんの勇気と行動力にほんとにお礼を言いたい。今後もがんばって。2017.7.13