神奈川県政に見る「特別秘書」制度

  長い記事ですが備忘録としてアップしておきます。テーマは「特別秘書」。分析はしていませんが、これは地方自治体にとって百害あって一利なしの制度です。
 神奈川県がこの制度を提案したのは松沢知事時代の2004年でした。その時から変だった。

公設特別秘書の設置提案へ 松沢神奈川県知事 – 47News

www.47news.jp/CN/200402/CN2004021601003292.html

2004年2月16日 – 神奈川県の松沢成文知事は16日、公設の知事特別秘書を設置する条例案を17日に開会する2月県議会に提出する方針を固めた。特別秘書制度は東京都や千葉県などで既に導入されているが、神奈川県では初の試み。松沢知事は県議会議長の特別秘書制度創設も同時提案する考えだという。関係者によると、松沢知事はマニフェスト(公約集)で掲げた政策のスムーズな実現を目指しており、政策秘書的な役割を持たせるのが狙い。昨年春の知事選後に選対幹部から任用した県臨時調査担当部長の起用を念頭に置いているとみられる。松沢知事は議会側に「他県にも制度があり、自分も活用したい」と伝えたが、野党会派の自民県議の一部には「調査担当部長の起用は側近政治につながる。議長秘書については余計なお世話だ」と反発する声もあり、曲折が予想される。2004/02/16 13:51   【共同通信】

 特別秘書をおくためにわざわざ条例が必要なのは、特別秘書とは、既存の副市長や副知事(正規の地方公務員)にはできないことができるという暗黙の了解があるからです。その上、議会の同意は不要で、これだけでも地方自治の本旨に反する。早い話が、グローバル企業の工作員だって指名できるし、公共事業だけでなく、自治体全体がカネで動かされることにもなりかねない。ところが、松沢氏は議会議長の特別秘書まで提案していた・・・いかにも彼らしいアホっぽさ。
 幸い、当時の県議会はまともで、この提案を蹴っていますが、松沢諦めず。
2008年、これを再提案しています。下の記事は斎藤県議のブログから一部を抜き出しました。多少編集あり。元記事は⇒http://saitotakeo.seesaa.net/article/88549773.html)。

2008年02月29日 
 特別職の秘書の職の指定等に関する条例
 県議会2月定例会における大きな課題である「特別職の秘書の職の指定等に関する条例」に関する審議を、総務企画常任委員会で行った。この条例は、地方公務員法3条第3項「特別職は次に掲げる職とする」の規定に基づき、知事選任の秘書1人を特別職として指定することが出来るよう定める条例案である。その職を置くか否か、その職務内容や報酬、職名などの規定は各自治体に任されてい
る。
 松沢知事は提案説明の中で、「特別職の秘書は、一般職では対応しきれない知事の諸活動をサポートする職であり、既に全国23都道府県で条例を定めております。本県におきましても、特別秘書の設置が必要と考えており、制度創設を認めいただきたく、提案する」と述べている。(中略)本県では
特に「特別秘書は政策形成には関与しない。部局や職員には直接指示や命令はしない」という説明である。(略)
 では具体的に特別秘書は何をするのか、当局資料をもとに列挙すると、①一般職の秘書にはできない知事の政務の補佐②知事の政務
に関する日程調整、知事への随行③行事出席、知事代理としての行事や会議への出席④各種団体等からの要望への対応⑤県行政の直接関与しない分野の情報収集
など
である。一般行政職員は行政の政治的中立性を確保するため、地方公務員法で政治活動が禁止されている。従って、知事には室長以下、秘書を含めた一般職員がいるが、勿論政治集会などには参加も同行も出来ない。日程調整も、知事の政治団体、私設事務所の私設秘書が行なうことになる。従って、政務に特化した
秘書の存在は、知事の職務環境の向上に資することになるであろう

 特別秘書制度が「地方自治の私物化」に使われるのは明らかですが、今回は根回しがちゃんとできていたのか、条例案は可決されました。ところが、この条例成立を伝える新聞記事はほとんど見当たりません。県のサイトでも見当たらない(除例規集。記事としてはせいぜいこれくらい↓http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/47909.pdf)。ようやく見つけたのがこの↓一行だけでした。よほどおおっぴらにしたくなかったのでしょうね。

特別秘書設置条例が成立/神奈川県 – 47News

2008年3月24日www.47news.jp/CI/200803/CI-20080324-18229954.html
神奈川県知事の政務を補佐する特別秘書の設置条例案が24日、県議会本会議で可決された。

 その松沢氏が特別秘書として雇ったのは、石原元東京都知事の秘書かつ選挙参謀を務めていた今岡又彦氏・・・その後の松沢の動向を知る人には、これが東京都知事選への横滑りを期待しての、非常に私的な指名だったことがわかるはずです。

初代特別秘書に今岡参与/松沢知事が起用 – 47NEWS(よんな …

2008年5月27日 www.47news.jp/CI/200805/CI-20080527-00824.html

 – 初代特別秘書に今岡参与/松沢知事が起用. 松沢成文知事は二十七日の定例会見で、新たに設けた特別秘書に今岡又彦参与(61)を起用することを明らかにした …

「あの人検索」にはこんな記事もありました。真偽は確かめていませんが、そりゃあありえるでしょう。企業の目的は「傀儡首長」を立てて、行政をそっくり乗っ取ることだから。 

*7:神奈川県の場合には今岡又彦
知事特別秘書がそのトップに君臨している。この人物は松沢の選挙参謀であると同時に石原慎太郎の元金庫番です。しかも09年度からの神奈川県営住宅での半
分の指定管理業者について今岡特別秘書の出身である東急エージェンシーの系列企業の東急コミュニティが落札している。今までは県の外郭団体が一手
に引き受けてきた公益性の高い事業に今岡特別秘書の出身母体の系列企業が参入してきたところに、本当に松沢知事の意向が絡んでいないのか、公平な落札が行われていたのか?非常に疑問が残ります … 

 そして彼が2011年3月の都知事選でみじめに負けた後、2011年4月に神奈川知事選が行われました。それを抑えた黒岩氏は、特別秘書について就任記者会見でこう↓述べています。

就任記者会見(2011年4月25日)結果概要
「特別秘書は、当面置きません。実は、これも正直申し上げて、私のすごく信頼する山崎さんという人、この人を、山崎養世じゃなくてですね、山崎賢吉という人ですけれども、この人に特別秘書になっていただこうと思っていました。ただ、特別秘書というポジションは、兼職ができないということでありまして、山崎さんは今、ほかの職業を持っておられて、それをすぐに辞めることはできないということなので、特別秘書という形にはでき
ませんので、私設秘書という形になってもらいます。ということで、特別秘書もいません。」

 なのに、わずか3ヶ月足らずで前言を翻し、知事特別秘書を任命しています。

定例記者会見(2011年7月15日)結果概要 – 神奈川県 …
Q: 
人事案件についてお聞きしたいんですけれども、千田さんは黒岩知事の擁立の立役者である菅さんの秘書をずっとやられていた方ですけれども、起用にはそういう政治的なバックアップみたいな効果とか、もうちょっと狙いとか期待みたいなものを、もう少し説明してください。
A :千田さんは、私の知事選挙においても手伝ってくださったんですね。で、私もこういう人事案件については極めて慎重にずっとやってきました。選挙戦を通じた千田さんの仕事の仕方、で、知識なんて非常に豊富でね。それで神奈川県内のことに非常によく分かっていらっしゃる。で、私にとって一番
その欠けている部分は、当然のごとく、神奈川県の中のやっぱりその人脈とか、いろんな人との関係とか、県議会の中での微妙な話であるとかです、各市町村長さんのそれぞれの背景とか、そういうデリケートな部分、なかなか把握できない部分がありますので、そういうことをやはり耳元でささやいてもらいながら
間違えないように、まさに神奈川県民総力戦といったものを実現していくために、こういう人が必要だなと思っていました。
Q :そういう人脈だったり、政治的な調整力みたいな部分を期待しての起用という。
A :それだけじゃないですけどね。いろんなことで相談をしていきたいと思ってますけど。

 裏事情に詳しい情報屋が欲しい、といっているだけじゃないか。でも、この千田氏、これまでの経歴を見ても、たいした情報通とは考えられません。「窓口」なら、ありえる。

(1970年生まれ、1994年、三菱商事株式会社入社。発電プロジェクト、石油探鉱開発投資・開発プロジェクトなどの立ち上げに従事。2001年より米国テキサス州ヒューストンの石油開発プロジェクト会社に経営陣として出向勤務。2005年、松下政経塾入塾。主な研究分野は外交・安全保障。2006年、自民党岩手県参議院選挙区第一支部支部長 2007年、参議院議員通常選挙出馬(次点)2008年、衆議院議員秘書・・・http://www.mskj.or.jp/profile/chida.html)

 この千田氏が、口利き県政疑惑の中心人物ですが、なにしろ「特別秘書」だから、何か問題が起きれば、そりゃあ指名者も連帯責任を問われます。ちなみに、川崎市議会は今年7月、川崎市長が提案したこの特別秘書条例案を、反対多数で否決しています。

「特別秘書」議会で否決 川崎市長一問一答
2015年7月3日 川崎市議会第3回定例会は2日、本会議を開き、福田紀彦市長が提案していた視聴の「特別秘書」を設置する条例案を賛成少数で否決した…。

 「政財界などとの折衝や調整に必要だ」との説明に対し、総務委員会は、なぜこのタイミングなのか、必要性が見いだせない、などと全会一致で否決したようで、それはよかった。

「ブラック制度」をつぶせ

 おそらく、川崎市長がほんとに言いたかったのは、「これから行政を民間に売り渡すことになるから、その準備として、官民の窓口となる人材が必要だ」ということだったはずです(自覚しているかどうか別にして)。「まさか」と思いますか? でも、行政の完全民営化は、1990年代半ばに仕込まれた陰謀であり、それが少しずつ実施され、「完全乗っ取り」はもうすぐそこまで迫っている。公務員が襟を正し、正直な事務を行い、行政が抱えている問題について声を上げない限り、いずれ資本主義的会社制度の渦に巻き込まれて粉砕されてゆくでしょう。汚い人間は生き残れるかもしれませんが、汚い人間ばかりはびこる社会は生きるに値しない。

 ちょっと言いすぎましたが、とにかく、こういう市民の目に見えず、チェックも及ばない制度(条例)は廃止すべきです。議会が通したんだから、県議が廃止の声をあげてほしい。なお、この方のサイト⇒(http://d.hatena.ne.jp/nozomimatsui/20110715/p1)は非常に詳しく参考になりました。もっと参考になるのが、出典のほとんど(おもに県HP)がリンク切れということです。市民はますます情報が得にくくなっているわけね。2015.9.13

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/