先にちょっとふれたGMO関連論文の件を簡単に紹介しておきます。
ちょうど一年前、2012年11月、遺伝子組み換え大豆を長期間与えたラットの多くに、ひどい腫瘍が発生したという論文が発表され、日本以外では新聞が大きく取り上げるなど、世界的な騒ぎになりました。私もこのニュースを伝えましたが、その時、発表された写真を再掲します。
この論文 ‘Long term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize’を掲載したのが、厳しい受付・審査基準と査読で知られる医学系専門誌「フード・ケミカル・トキシコロジー・ジャーナル」誌でした。
なにしろ、「農薬(ラウンドアップ)組み込みGMO大豆を食べ続けたらどうなるか」、という世界初の研究報告であり、「案の定」健康被害を証明する内容だったため、GMOに対する信頼性はさらに落ち、日本以外の国は、一斉にGMOに対する規制を強化したわけです。
ところが、これで黙っているようなモンサントではなかった。
同論文が掲載されるやいなや、その撤回を求める攻撃が始まり、著者らは、なんと、論文を掲載した同誌の編集者から「自ら論文をひっこめるか、そうでなければ同誌として撤回する」との通告 November 19 letterを受けています。その中身は、いわば「脅し」。
★貴論文発表後、まもなく編集部にはその中身に疑問を呈する多くの意見が寄せられた。中には「詐欺」ではないかとの指摘もあった。
★多くの意見が、編集部に同論文の撤回を求めており、編集長としては問題の性格に鑑み、査読プロセスを再度見直し、生データの入手を求めた。
★本誌の編集方針として、主著者は、求めに応じてオリジナルデータを提供することになっているが、生データは全部得られたわけではない。
★編集者は、詐欺やデータの意図的捻じ曲げを確認したわけではない。査読チームは、実験動物が少なさなどについて懸念を示していたが、それでも本研究の優勢を認めたものである。
★生データをより深く読み込めば、実験動物が少ないので、NK603(グリホサート耐性GMO)と腫瘍の関係について結論は出せないことが明らかである。
★従って、貴論文の結論は確定的ではなく(不正確だという意味ではない)、本誌の出版基準に達していない。査読プロセスは必ずしも完全ではない。
★主著者は本誌の求めに応じて、開かれた対話に参加してほしい。撤回要請は、単に貴論文が「確定的ではない」ことが理由であり、本編集部はいかに問題が多い論文でも、その内容をきちんと精査する…
要は「実験動物の数が少なすぎて、結論など出せないはず=論文を掲載したのは査読チームのミス」「自らひっこめれば、穏便に扱う」と言っているわけ。著者のセラリーニらはこれに反発し、結局、彼の論文は同誌から撤回されたのです。
研究は200匹以上のラットを平均寿命である二年間飼育し続け、変化を見守る形で行われました。これは人間が生涯GMOを摂取したらどうなるかを明示するものでした。飼育120日後には腫瘍が発見されたため、それまで唯一の研究だったモンサントの自社調査ーー90日間ーーの「GMOは安全」という結論をひっくり返すものだったからです。本来、多くの研究が行われて当然の「食の分野」では、実際は規制もゆるいし、研究できにくい背景があります。グローバル企業に反対するような研究には、研究費が出ないし、ひどい場合は、首にされたり学会から追放されるのも普通。セラリーニ氏らの研究も、そのような業界の妨害を防ぐため、完全に秘密裏に行われたというから、「食」に関する正確な情報はなかなか手に入れにくい。
それにしても、データ操作や詐欺はない、と認めながら、厳密な審査を経た論文を撤回するとは、科学に名を借りた政治的暴挙。すぐに多方面から、モンサントが手を回した!という批判が寄せられました。実は、同論文発表から6ヶ月後の2013年5月、出版社のElsevier 社(エルゼビア – Wikipedia)は、「バイオテクノロジー(GMOなど)に関するアソシエイト・エディター」という新しいポジションを作り、そこに1997-2004の間、モンサントでGM穀物の安全性に関する「アレルギープログラム・マネジャー」を務めていたリチャード・グッドマン氏Richard E. Goodman | GMO Answers を招きます。彼は世界のバイオテク企業6社から資金を受けて、世界中でGMOとアレルギー関連の事業を展開し、2003年のコーデックスガイドラインの作成にも関与した、モンサント御用学者。編集部町名で、研究チームに対する通告が出されたのは、それからちょうど半年後でした。
編集部長のA.Wallace Hayes氏は毒性学の「世界的権威」。彼もまた、モンサント社の「フロント組織」である国際ライフサイエンス研究所に長年勤め、企業寄りのリスク・アセスメント開発に関わり、それを政府の規制に反映してきた人物で、EPAや国防総省にも強いつながりを持つ、いわば究極の御用学者です。この人事が、査読委員(普通は匿名)に対する無言の圧力になるのは明らかで、Elsvier社とモンサント社は、このような人事を通じて、「今後、同様の独自調査はぜったい許さない」という姿勢を示したわけです。それだけ、セラリーニ研究を産業界が重く受け止めた(=一般市民に知らせてはいけない)ことを示していたのです。
その結果、欧州食品安全機関(EFSA)も、セラリーニ研究には深刻な欠陥があり、従来のNK603の基準を見直す必要はないとし、12月18日には、GMO大豆は天然大豆と同じで、安全とする意見書を出していますScientific opinion on GM soybean 305423 。そこにはもちろん、EFSAの学者がモンサントやその関連企業に資金提供を受けている(利益相反)という問題があり、その中立性をめぐって大きな議論が起きているのですが。
こういうトレンドはNGOにも広がっています。たとえば、このサイト↓。
セラリーニ氏の「遺伝子組換えに
発がん性」論文が取り下げ … www.foocom.net/column/editor/10465
「科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体」だそうですが、ちょっと読めば、どんな立場でいるのかよくわかる。まあ、「ネオニコチノイド系農薬のすべてがミツバチに悪いわけではない」と主張する消費者団体もあることを初めて知りました。
一方の消費者団体、「日本消費者連盟」も、詳しくは「消費者リポートを購入」しないと情報は取れないわけで、日本人はやはり情報を得られにくい状況に置かれているようです。
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