「結婚するな」より怖い「心配要りませんよ」

 この記事にはびっくりしました。いえ、池谷会長の発言にではなく、この発言を押しつぶし、訂正を強いている社会に。「結婚するな」のくだりは余計なお世話にしても、内部被爆と先天障害については、ちゃんとポイントを抑えた発言・・・私たち市民に必要なのは、むしろこういう警鐘を鳴らしてくれる学者なのです。まず、下の報道を読んでください。(強調山本)


「放射能地域の人 結婚しない方が」で波紋
TBS系(JNN) 8月30日(木)23時44分配信
 公益財団法人の会長が「放射能雲が通った福島などの地域の方々は極力、結婚しない方がいい」と発言した問題で、福島市議が訂正を求めるなど波紋が広がっています。先月9日、地方議員およそ70人が参加して行われた「日本をリードする議員のための政策塾」。主催したのは「日本生態系協会」という公益財団法人です。この講演の中で生態系協会の池谷奉文会長(70)が、福島第一原発事故の影響について次のような発言をしました。「放射能雲が通った福島ばかりじゃございませんで、栃木だとか埼玉、東京、神奈川あたり(中略)、あそこにいた方々がこれから極力、結婚しない方がいいだろうと。結婚をして子どもを産むとですね、奇形発生率がどーんと上がることになっておりましてですね、大変なことになるわけでございます」(池谷奉文会長 先月9日・講演)
 こうした発言が波紋を広げました。「あれはダメですね。あんな表現になると、かなり県民感情を害するかたちになってしまう。ちょっと残念ですね」(平野達男 復興相)
 当日、講演に出席していた福島市議ら4人は29日、記者会見を開き、不適切な発言だとして、強い不快感を示しました。「我が耳を疑った。私たちも被災者であり、復興に取り組んでいるから、その発言には敏感に反応した。まさか議員に講義をする、生態系に詳しい先生の発言とは思えなかった」(福島市 佐藤一好市議)佐藤市議らは、池谷会長に対し、発言の訂正を要求しています。
 「影響力のある公益財団法人の代表が発言した言葉は重いと思う。当日の出席者全員に“発言訂正文を送付いただけるよう、お願いしてきた」(福島市 佐藤一好市議)
 一方、池谷会長は29日、報道機関に対し、今回の発言の趣旨を説明する文書を送り、“福島の人を差別するようなことは思っていない”と説明しました。さらに30日午後、池谷会長はJNNの取材に対し、次のように語りました。「東京電力の原発事故の後、放射能雲が通りましたよね。それは当然、福島だけではなくて関東各地もあちこち通ったわけですから、東京電力の原発事故を軽く見ているんだと思います」(日本生態系協会 池谷奉文会長)
 池谷会長は、獣医師という職業のほか、環境保護に取り組み、チェルノブイリ原発事故が及ぼした影響なども調べているといいます。「正確な情報をまず知るということが先で、そのうえでどう対応するかということを考えていくことが必要だと思う」(日本生態系協会 池谷奉文会長)
 今回の池谷会長の発言について、放射能に詳しい専門家は「科学的な根拠がない発言だ」と話します。「根拠として出されている資料を見ると、ほとんど多くの専門家が認めていないような資料に基づいているあまりにも無理解で、無神経な発言だと思う」(日本大学 放射線防護学 野口邦和准教授)(30日15:56)
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20120830-00000065-jnn-soci#contents-body
 普通、訂正を求めるのは、何らかの間違い、誤りがあるからですが、この記事のどこを見ても、池谷氏の発言のどこが間違っているか、を書いていない。「ダメ」、「県民感情を害する」、「不適切」、「無理解、無神経」だからって、どう書き換えろと言ってるの> 「多くの専門家が認めていない」というのは、日本だけのことでは? むしろ、「フクイチを軽く見ている」、という言葉の方が説得力があります。この不可思議な報道の情報源は、↓の福島民法の記事のようです。ちょっと長いけれど、全文をアップします。強調山本。
生態系協会長 発言認める「差別と思っていない」 
 日本生態系協会の池谷奉文会長(70)が東京で開かれた講演会で、東京電力福島第一原発事故を受け「福島の人とは結婚しない方がいい」などと不適切な発言をしたとされる問題で、池谷会長は29日、報道機関に対して講演記録の一部を公表した。記録には不適切とされた発言内容が含まれていた。ただ、池谷会長は「福島の人を差別するようなことは思っていない」と反論した。
 一方、講演会に参加した福島市議は同日、記者会見を開き、講演時の発言の撤回を求めることを明らかにした。池谷奉文会長が公表したのは東京で7月9日に開いた日本生態系協会主催の「日本をリードする議員のための政策塾」で、池谷会長が講話した冒頭と中盤の一部。
 文書には「福島ばかりじゃございませんで栃木だとか、埼玉、東京、神奈川あたり、あそこにいた方々はこれから極力、結婚をしない方がいいだろう」「結婚をして子どもを産むとですね、奇形発生率がどーんと上がることになる」とある。 協会によると、録音を書き起こした内容で、県内の各報道機関に送った。福島民報社の取材に対し、池谷会長は発言内容を認めた上で、「福島の人を差別するようなことは思っていない」と反論。これまでの取材に一貫して「発言していない」としていたことについては「差別発言ではないという意味だ」と答えた。
  池谷会長は現職の獣医師。「政策塾」は平成15年から年一回ほどのペースで開き、今回が12回目。毎回80人から100人程度の地方議員や議員を目指す市民らが参加しているという。昨年は東日本大震災の影響で中止となり、今回が震災後初の講演だった。池谷会長は、ヨーロッパなどに毎年足を運び、チェルノブイリ原発事故が及ぼした影響なども調べているという。池谷会長は「原発事故が及ぼす影響がいかに危険かを伝えたかった」とし、「言葉の揚げ足取りではなく、今後もたらす重大な事態にどう対処すべきか、政治課題として為政者も措置を講じる必要がある」と説明した。
 一方、福島市役所で開かれた記者会見には研修会に出席した佐藤一好福島市議ら4人と粕谷悦功市議会議長、渡辺敏彦副議長らが出席。これまでの経緯を話した上で、池谷会長に対し、不適切な発言について撤回し、出席者全員に訂正文を送るよう求めることを明らかにした。30日に池谷会長宛で内容証明で文書を送付する。佐藤市議は「復興に向けて活動する県民に対して容認できない発言。公的な立場で話す方なら、誠意ある対応をしてもらえるはず」と述べた。 池谷会長は発言の撤回要求に「文書を見て対応したい」と話している。
<池谷会長が公表した講演発言内容>(冒頭部分)
 それでは引き続きお疲れとは思いますが、しばらくご容赦ください。さきほどのチェルノブイリの話でございますけれども、放射能ってのは、怖いのは、人間は放射線には強いのでございまして、レントゲン写真を撮るじゃないですか、そんなことでそれほど放射線には、限度超えたのは具合が悪いのですが、かなり強いんです。本当の問題は後でございまして、日本は福島がそうですが、これからですね内部被ばく、これがどうしようもないんでございまして、これからの放射能雲が通った、だから福島ばかりじゃございませんで栃木だとか、埼玉、東京、神奈川あたり、だいたい2、3回通りましたよね、あそこにいた方々はこれから極力、結婚をしない方がいいだろうと。結婚をして子どもを産むとですね、奇形発生率がどーんと上がることになっておりましてですね、たいへんなことになる訳でございまして。(以下略)
※日本生態系協会 平成4年に設立された公益財団法人。生態系を守り、持続可能なまちづくりを目指す専門家集団で、国内外の先進的な事例の研究成果を基に、提案活動、調査・研究、普及啓発などを主な活動としている。本部は東京都にあり、さいたま市やドイツ、アメリカに研究施設を持つ。職員は約100人、会員は一般市民や地方議員ら3万人がいるという。
■県内女性怒りの声
 池谷会長の発言に県内の主婦らは驚きと怒りの声を上げている。 本宮市の妊娠中の主婦(33)は「信じられない。県民を侮辱している。福島で出産し、子育てをしようと思っているのに無用に不安をあおるような言葉は慎んでほしい」と憤る。 福島市の女性(24)は「ショックだ。県外の人から間違った印象を持たれるのが一番怖い。差別する気がなかったとしても、福島の女性に対する悪いイメージを植え付けてしまうことにつながる」と不安そうに話した。
 結婚して子どもを産むと奇形発生率が上がるとした発言について、県放射線健康リスク管理アドバイザーを務める長崎大大学院の高村昇教授(放射線医療科学)は「科学的根拠がない。県民が心配する必要は全くない」と断言した。チェルノブイリ原発事故後の健康影響について国連科学委員会が昨年出した報告書でも、胎児への遺伝的な影響は科学的に認められないとしているという。原爆被爆者のデータも同様で、「事故当時に県内にいたという理由で出産や結婚を避けることはあり得ない」と述べた。 今回の会長発言について、前後関係が分からず意図ははっきりしないとした上で「一般論では専門家が一般の人を対象に説明する場合、国際的、科学的にコンセンサスを得られた事項を基に話をするべきだ」とした。また、「長崎、広島の被爆者も根拠のないことで差別された。21世紀の現代に繰り返してはならない」と主張した。首都大学東京大学院の放射線科学域長を務める福士政広教授(放射線安全管理学)は「現在の放射線量は遺伝的な影響を及ぼすようなものではない。社会的な混乱を招くような発言で、非常に違和感を覚える」と話している
http://www.minpo.jp/news/detail/201208303361
 …ショックを受ける人もいるかもしれませんが、御用学者の「全く心配いりませんよ」という、それこそ事実無根の言葉より、どれほど真に迫っていることか。今、汚染地区の子どもたちが置かれている状況については、松崎道幸医師が意見書http://t.co/auGBFHfh 「今、福島のこども達に何が起きているか?」で書いている通りですが、胎児は子どもよりもっと弱い。母親になる年代の女性たちは、この警告を真剣に受け止めるべきなのです。
 なお、池谷氏は、それでなくても政府ににらまれていました。自分のブログで「原発要らない三つの理由」なんて明言しているほどの反原発派なので。それも、原発ごみに着目しての反対だから、目線が確か。「政治家やマスメディアでは、技術的な安全性の確保のみに注目していることが多い。最大の問題であるゴミの処理方法が確立しないかぎり、原子力エネルギーは使用するべきではない。将来世代の人々に、「処理できない」ゴミの処理を託すなど決して許されることではないのだ。」http://d.hatena.ne.jp/h_ikeya/20110826/1314343881
 それだけじゃなく、ダムもコンクリート構造物も、防潮堤だって「いずれごみになる」と喝破。国際フォーラム「復興から見える新たな日本の創造 全国どこでも起こる大災害」では、現在のコンクリート多用の公共事業を批判し、災害に強い自然を生かした国土作りを提案しています。いちいちうなづける内容で、興味のある人はぜひ読んでほしい。
http://www.ecosys.or.jp/activity/symposium/symposium2011/forum2011all.pdf
 だから、ゼネコンと建設族にうとまれたのでしょうね。7月初めの講演から、ずっと訂正しろ、と圧力をかけ続けていたけれど、OKしないので、この報道になったのではないでしょうか。311後、政治家のウソがはびこるのに反比例し、学者はますます事実を伝えにくくなっています。池谷センセイ、どこまでめげないでがんばれるか、やや心配。そのうちエールを送らなくっちゃ。2012.9.4

この記事を書いた人

山本節子

調査報道ジャーナリスト・市民運動家。「ワクチン反対市民の会・代表」。
立命館大学英米文学科卒業。中国南京大学大学院歴史科修士課程卒業。
住民運動をベースに、法令や行政文書を読み込んで、自治体などを取材するという独自のスタイルで、土地開発や環境汚染、焼却場・処分場問題に取り込み、数々の迷惑施設事業を阻止して来た。2011年以降、福島原発汚染がれきの広域処理、再エネ、ワクチン、電磁波などもカバーしているが、昨年からはコロナ問題に全力で取り組み中。市民育成も手掛けている。著書「ごみを燃やす社会」「大量監視社会」等多数。
ブログ「WONDERFUL WORLD」https://wonderful-ww.jp/